「複数のクラウドがそれぞれ独自のサービスやインターフェースを持っているため、個々のスキル習得の必要性や相互運用性の問題があります。また各企業のクラウド環境やエッジ環境においてデータが分散されると、一貫したセキュリティー担保やクラウド間のデータ活用が難しく、データドリブンな改革が困難なのです。クラウド化が先行している欧米では、ここ数年でパブリックコストの長期的な財政圧迫も大きな問題となっています。
複数のクラウドを使うこと自体が問題なのではなく、オンプレ環境も含めて一貫した運用と柔軟性、中長期的なコストも加味してクラウド全体のアーキテクチャをデザインすることが重要なのです」
またDX推進においてIT部門の範囲や負担が増える一方で、サイロ化されたIT環境の管理・運用に人と時間を取られ、DX人材を増やせないというジレンマに陥っている国内企業も多いと、藤森上席執行役員は指摘する。
自社の経験を生かしてお客さまのDXを支援
デル自体も社内に同様の課題を抱えていたと、藤森上席執行役員は回想する。解決に当たったのは、同社のIT部門(デル・デジタル)だった。
「デル・デジタルは自社ビジネス部門のパートナーとしてDX推進を支援するために、機能を充実させながら、必要なセキュリティーやサービスレベルを確保し、適切なコストでサービス提供できるようマルチクラウド環境を進化させてきました。目指したのは各クラウドやオンプレで、運用管理、利便性は統一しつつ、その特性に合わせて適材適所で柔軟に活用できるマルチクラウド環境の実装です。その結果、厳しいセキュリティーやガバナンスが求められる、もしくは低コストで長期運用が必要な場合などは、積極的にコストが半減する自社のプライベートクラウドを選択可能となりました」
実際この実現を後押ししたのがリリース前のAPEX先行導入である。これによってオンプレシステムの基盤をパブリッククラウドと同じように調達・運用できる仕組みを自ら活用し、サービス提供開始までの期間の大幅短縮、運用管理の簡素化、管理者の作業時間を50%削減、開発者の生産性が3倍向上するなどの効果を体感している。
マルチクラウド戦略を支えるAPEXという解決策
マルチクラウドをシンプル化するデルの戦略において必要不可欠な技術要素がある。パブリッククラウド技術をオンプレに、そしてデルがオンプレで培ったデータに関する革新技術をクラウド上でも利用できることだ。
「これによってお客さまは、AWSやAzureなどのパブリッククラウド、プライベートクラウド、エッジ、社内ストレージなどをシームレスかつ高度なセキュリティー下で利用することが可能になりました。デルのインフラ上で、各クラウドのOSを動かすことも可能です。これをAPEXでサービスとして提供することでクラウドと同様のサービス体験をオンプレでも実現します」
最終的にはどのクラウドでも単一のインターフェースにてサービス展開および運用管理できるようAPEXの提供範囲を拡大していく予定だ。
そして今、藤森上席執行役員が特に注視しているのは、末端を担うエッジコンピューターだ。
「今後、75%以上のデータがデータセンター以外の部分で発生するといわれています。その場所はエッジ。例えば、自動運転の車や工場、店舗、監視カメラのデータなどデータ発生源はありとあらゆるものが当てはまります」
こうしたエッジのDXは、企業にどのような恩恵を与えてくれるのだろうか。
「無数に広がるエッジをつないで、セキュアな状態で自在に管理できるとしたら、何が起こるのか。それにより私たちは、お客さまのビジネスに、どのような貢献ができるのか。データドリブンで始まる新たなビジネスこそが企業のメリットであり、日本のDXを前に進める駆動力になると信じています」
デルが行うユーザーに負担をかけないDX。これこそが2025年の崖をジャンプする鍵となるのかもしれない。