パーキンス氏は、いまや企業経営に関わる者であれば誰しも、意思決定が「データカルチャー」と「データ可視化」の前提なしには行えないことを知っていると前置きした上で、エグゼクティブの役割を以下のように解説する。

「データの可視化は、新しいコミュニケーションの方法であり、新しい言語を話すのと同じです。そこではリテラシーが問われます。よく、『エグゼクティブがデータの可視化に対応できていないから』と、売り上げ推移を表す簡単な線グラフや棒グラフをプレゼンテーションソフトに貼り付けてレポートすることがあります。しかし、そこから読み取れるインサイトは限られ、背後に潜む文脈は分かりません。『データの可視化』は、『分かりやすいグラフにすること』ではありません。エグゼクティブがすべきことは、適切な指示を出して生データの裏にあるストーリーをあぶり出すことです」

「データカルチャー」醸成へ、エグゼクティブが担う役割とは ——— Tableau活用でデータの裏にあるストーリーを読み解くオンラインで登壇した、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー ファイナンスデータ&インサイト部門 エグゼクティブディレクター Will Perkins氏

 その上で、BIプラットフォーム活用において陥りがちな状況を例示した。

「ある日、役員から、ビットコインを担保とした住宅ローンに関連する金融商品についてリクエストが入ったとします。たった1行『昨年の口座数の推移を知りたい』というリクエストです。口座数の推移自体は一目瞭然で、補足は要りません。エグゼクティブもその事実は把握できるでしょう。しかし、このリクエストは不十分で、何を知りたいのか分かりません。どの口座を指しているのか、平均的な残高は必要ないのか、1日単位なのか週単位なのか月単位なのか、製品別に見たいのか顧客の属性別に見たいのか……。それによって提供すべきデータは異なります。リクエストの解像度が低いと誤解が多くなり、解決法やイノベーションも導き出せません」

 エグゼクティブからの「解像度の高いリクエスト」があってこそ、可視化されたデータから実情を浮かび上がらせることができ、次の打ち手につながる。示唆に富むパーキンス氏のプレゼンテーションは、社内のデータカルチャー醸成におけるエグゼクティブの在り方に及んだ。

エグゼクティブの積極的な関与が
データカルチャーを育てる

 パーキンス氏は、エグゼクティブのデータカルチャーへの関与についてこうアドバイスする。

「皆さんがデータアナリティクスの専門家である必要はないのです。ただ、データカルチャーの高度化に貢献する人材を支援し続けてください。そのメンバーに権限を与えるだけでは足りません。しっかりバックアップしてください。もしこうした人材が、チャレンジしたいことがあると言ったらフォローアップしてください。そして、エグゼクティブである皆さんも、社内のTableauユーザーグループに参加してその推移を見守ってください。『使えそうなツールだし、担当者もアサインしたから大丈夫』で終わってしまっては、強力なデータカルチャーは生まれません」

 さらに参加者からの質問に答える形で、企業内におけるデータカルチャー醸成について、パーキンス氏からある事例について詳細なシェアがあった。

「事業部門から財務部門へ、金利や所得、人員、経費などといったさまざまな数字について、もっと分かりやすくできないかというリクエストが入り、CFOからPL(損益計算書)の表示方法を工夫するよう指示がありました。事業部門の課題は、特定の項目だけを見ていてもインサイトは得られないということでした。そこでさまざまな部門と連携してその課題に応えるデータを、Tableauの特性を生かしたインタラクティブな形で用意しました。従来のように印刷して配布したり、プレゼンテーションソフトにグラフを貼り付けたり、表計算ソフトからエクスポートしてメールで送ったりして終わりというのではなく、Tableauのダッシュボードを使いこなし、自分たちのストーリーを練り上げてもらうことが狙いでした。この施策は社内でも評価され、数字を単に表やグラフで示すだけではなく、データをインタラクティブに扱えるTableauの有効性を認知してもらう良い機会になりました。この実績から『ぜひうちの部門も使いたい』という機運が社内で高まり、データカルチャーの高度化につながりました」