VUCAの時代に求められる力を付けるデジタルクリエイティブツールによる実践的なデザインの学び千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュートの活動拠点、千葉大学墨田サテライトキャンパスにて。左から張 益準准教授、原 寛道教授(副インスティテュート長)、植田 憲教授(インスティテュート長)、小野 健太教授

「デジタル人材が不足している」というのは、日本のさまざまな企業、組織の共通課題だが、この課題に対してデータサイエンスやプログラミング教育といった側面だけではなく、「デジタルツールを使いこなし創造性(クリエイティビティ)を発揮できる人材育成」という側面にも力を入れているのが、千葉大学だ。

 同大学では、2019年から普遍教育科目(全学共通教養教育を指す)の中で「デジタルクリエイティブ基礎」講座を開講している。学部を問わず全学生を対象にクリエイティビティを培う機会を提供する意図はどこにあるのか。同大学のデザイン研究をけん引する千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュートで話を聞いた。

学部を問わず全学生を対象にデザインの学びを提供

 千葉大学は、国際教養学部、文学部、教育学部、医学部、工学部など10学部を有し、全国の国立大学の中で志願者数がナンバーワンの人気大学だ。この千葉大学で、学部を問わずに受講できる「デジタルクリエイティブ基礎」講座が実施されている。

 デザインの基礎知識とともに、ポスターや動画などの実制作を通してアドビのデジタルクリエイティブツールの使い方を学べる実用的な講座だ。定員は100人だが、コロナ禍のオンライン授業ではそれを上回る人数を受け入れてきた。

 多様な学問分野の学生に向けてこの講座を開講する理由の一つは、プレゼンテーションの表現力を上げることだ。どのような分野でも社会課題解決に挑むには、ビジュアライズして人に伝える力が欠かせない。ビジネス系アプリケーションだけでは到達できないビジュアル表現の力があれば、説得力が格段に上がる。また、最近ではAdobe PhotoshopやIllustratorなどのデジタルクリエイティブツールを使えることが就職において有利に働くことも大きなメリットだ。

 しかし、千葉大学が考えるデザインを学ぶ価値は、こうしたスキルアップという側面にとどまらない。「デザインを学ぶことは、コミュニケーション能力の向上や社会参画の力を付けることにつながると考えています」と話すのは千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート(以下、dri)長の植田憲教授だ。

VUCAの時代に求められる力を付けるデジタルクリエイティブツールによる実践的なデザインの学び千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート インスティテュート長
植田 憲 教授
千葉大学大学院融合理工学府・工学部 デザインコース担当。専門は、デザイン文化計画、地域資源活用、内発的地域づくり、内発的観光創造。維持可能な社会の構築を目指した教育研究ならびにデザイン提案を行い、文化の「これから」をデザインする。

 千葉大学は、東京都墨田区にあった「すみだ中小企業センター」を改修、2021年に墨田サテライトキャンパスを開設した。そこに生活の全てをシミュレートする新たなデザイン教育研究拠点としてdriを設置、同キャンパスの1、2階は地域にも開放され、町工場やNPOなどと連携し、実社会と密接に結び付いたデザインの学びの創出に積極的だ。

「デザインは、架空の世界と人をつくり上げて頭の中で行うものではなく、実社会をまさに五感で感じて、具体的な対象に提案をしてフィードバックを得て、実感を持つことが大切なのです」(植田教授)

 その言葉通り、実際にdriが行うデザインの学びには、コミュニケーションや社会参画の姿がある。次ページからは、今の時代に必要とされる課題解決力とデザインの関係を詳しく紹介する。