分野を超えた学びが新しい領域を生み出す

 driの小野健太教授は、ツールがより便利になり、ネット動画でさまざまな技術が共有されるようになった今の時代を踏まえ、こう話す。「プロフェッショナルとアマチュアの境界があいまいになってきているのは、デザインだけではなく他の分野でも同じことがいえます。ある意味、プロフェッショナルとしては危機感もありますが、自分が他の分野に挑戦できる可能性も広がります。分野間の垣根がどんどん低くなってきているという気がしますね」。

VUCAの時代に求められる力を付けるデジタルクリエイティブツールによる実践的なデザインの学び千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート
小野健太 教授
千葉大学大学院融合理工学府・工学部 デザインコース担当。専門は、システムデザイン、デザイン理論。さまざまなデザイン対象をシステムとして捉え、人々の生活をより豊かに、より便利にするための仕組みのデザインを行う。

  それにより、分野間の融合も起き得る。例えばデザインを学ぶ学生が、表現のために必要なプログラミングを学ぶこともあるということだ。逆に、デザインが他の専門性と結び付いて、VUCA(ブーカ)といわれるこの予測不能で不確実な時代に、新たな力を生み出す可能性も高い。

「まさにこのコロナ禍での対応などは、いくら頭で世界中が競って考えても、やっぱり正解がない。でも、その中でソリューションを出していかなければいけないわけです。実際に社会と触れ合って試行錯誤を繰り返しながら、ベストではないけれどベター、という選択をするしかないという問題がこれからどんどん増えていきます。頭の中で考えるのではなく、実際に試してそこからベターなものを出していくというデザインの力は、今、とても必要とされているのではないかと思います」(小野教授)

 技術の発展により、アドビのようなデジタルクリエイティブツールを誰でも使いやすくなったからこそ、学部を問わず実践的なデザインの学びを提供するハードルは下がった。多彩な学生がデザインを学ぶ未来について、植田教授は、「デザインの力が、いろいろな領域と結び付いて新しい領域を作っていくのではないかと思います」と見通す。

デザインを専門とする学生にはアドバンストコースを設置

 プロフェッショナルとアマチュアの境界が変化したということは、プロフェッショナルの側が求められるスキルも変化しているということだ。「昔はピラミッドの上部に行くに従って次第に専門性が高くなっていましたが、今はピラミッド型ではなく水平的。一般のレベルと専門のレベルが完全に分かれていて、一般レベルが大きくなった一方、専門の部分は小さくなっている感じがあります」(張准教授)。

 デザインを学ぶ学生にとっては、アドビのデジタルクリエイティブツールの基本機能を道具として使いこなすことは当然の基礎であり、サッカーでいえばドリブルやパスの練習をするようなものだという。そこから実際の試合に通用する力を付けるには、もう何ステップも上のスキルが必要だ。

 アドビのデジタルクリエイティブツールは誰にとっても使いやすくなった一方で、入門者が使用しない機能も膨大に搭載されており、AIによる高度な機能の進化も目覚ましい。さまざまな機能を効果的に使う引き出しを持ち、AIや処理の自動化などを駆使して、より効率よく作業を進めるスキルも重要となる。そこで23年度からは、千葉大学でデザインを学ぶ学生を対象にデジタルクリエイティブのアドバンストコースを開講する予定だ。

 こうして、デザインが専門の学生と明確な線引きをしながら、幅広い専門分野の学生が新たにデザインのスキルを獲得し、コミュニケーションや社会参画の力を培う環境を整えた千葉大学とアドビの取り組みは、新しい時代の人材育成の姿として大いに参考になるだろう。

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アドビ株式会社
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