地域の課題解決をデザインの力で
例えばコロナ禍には、同キャンパスをワクチン接種会場としても提供することをきっかけとして、張益準准教授の監修で、接種会場のサインシステム(公共施設などに設置される案内標識の体系)を墨田区と共に制作した。「当時は接種をどのような手順で進めるかということもまだ混乱していて、墨田区や医療関係者とよく話をして進めました。情報を提供するときにどうやって分かりやすく伝えるかという視点で、地域にデザインで寄与できたのではないかと思います」と張准教授は振り返る。密接を避け安全で安心な接種会場の運営を助けるこのサインシステムは、国内外のデザイン賞を受賞した。
張 益準 准教授
千葉大学大学院融合理工学府・工学部 デザインコース担当。専門は、ブランディングデザイン、エディトリアルデザイン、情報デザイン、イラストレーション。さまざまなレベルのコミュニケーションデザインの表現技術、計画手法、評価方法を研究する。
また、1階の開放スペースでは、定期的に地域の子どもたちの遊び場を開き、町工場の廃材を基に新たな遊びを創出するなどしてきた。
この取り組みの中心となるdri副インスティテュート長の原寛道教授は、「この地域に既にある要素を紡いで、そこからどういう面白さを生み出せるか、別の価値を生み出せるか、という発想をしていくのが環境デザインの観点です。廃材を廃材と呼ばずに別の名前を与えるところから考えます」と話す。
デザインが新たな関係性や場を生み出し、driが地域で子どもの成育環境を考える人々の思いをつなぐハブのような存在になっているのだ。
原 寛道 教授
千葉大学大学院融合理工学府・工学部 デザインコース担当。専門は、環境デザイン、遊具デザイン、家具デザイン。環境と人間に関わる諸問題を扱い、主に屋外で子どもを含めたさまざまな人々の交流を促進する遊び環境の研究・提案を行う。
これらはいずれも、地域のリアルな課題をデザインで解決した事例だ。コミュニケーションを通じて社会課題解決に取り組むという姿勢は、さまざまな学問領域に共通してまさに今求められている要素だ。デジタルクリエイティブツールを使って、自ら手を動かしデザインして、人に見せフィードバックを得るという経験を繰り返すことは、頭の中で考えるだけでなく、人とのコミュニケーションの中で解決策を見つける力につながるというわけだ。
大学にも学生にもメリットのあるライセンス管理体制
千葉大学で全学部を対象に「デジタルクリエイティブ基礎」講座を導入し、アドビ製品を利用できるようにするには、ライセンス付与や管理を円滑に行う必要があった。そもそも千葉大学では、学生の学修環境の充実に力を入れている。個人が私物として所有しているパソコンやスマートフォンを授業で使う利用形態「BYOD(Bring Your Own Device)」を推進しており、この「デジタルクリエイティブ基礎」講座で必要なアドビのCreative Cloudライセンスについても、学生一人一人にユーザー指定ライセンスを割り当てている。
大学が学部や授業単位でライセンスを管理するのでは煩雑だ。そこで、千葉大学は包括契約に付随する学生オプションを活用して一括してライセンスをアドビから購入し、さらに管理と運用を千葉大学生活協同組合(生協)に委託して、格安(原価)で学生が購入できるモデルを構築した。これにより、大学の管理の面でも学生の学修環境の充実の面でもメリットを享受できている。
ライセンスは個人で学生モデルを購入するよりもはるかに安価で、1年単位の更新なので授業などに必要な期間を選んで購入すれば、学生の経済的負担も少ない。また、Creative Cloudのライセンスにはクラウドストレージも付属するためBYODとも相性が良く、学生は時間や場所の制約なく、デジタルクリエイティブツールを使用できる。
こうしてデジタルクリエイティブツールが誰にでも手の届く身近なものになった背景には、ツールの機能や使い勝手が向上したこともある。「10年前、20年前と比べると、タブレットやスマートフォンで写真の補正などが簡単にできるようになり、アドビのソフトウエアも、一般の人でも使いやすくなりました」と張准教授はテクノロジーの進化を指摘する。デザインの裾野が広がり、プロフェッショナルとアマチュアの境界にも変化が生まれつつあるという。