レジ無しウォークスルー型店舗での実証実験を開始
共創実証ラボは、健康データの利活用に取り組む企業が自社のサービス構想などを、モニターから実際に収集したデータを使って検証できる場だ。NTTデータが社内で募集した600人の社員がモニターとなり、自身の健診結果やウエアラブルデバイス「Fitbit」の測定結果などを同ラボ用のHDBに保存。社員モニターはそれらのデータを自分の意思で、ラボを利用する企業(以下、ラボ利用企業)の商品やサービスなどと連携させ、実際に使用して評価する。しかも材料となるデータはこれだけでない。同部の久保佑貴主任が説明する。
「社員モニター600名から家族構成や共働きかどうかといった基本的な属性、睡眠、運動、食事などの健康に関する行動や悩み、さらに物を買うときの価値観など、生活に密着したアンケートに答えてもらいました。健康データに加えて、このアンケート結果や提供したアプリの使用頻度などのデータを提供することで、ラボ利用企業はさまざまな側面から検証を行えるのではないか、と考えています」
吉行隆一 課長代理
23年3月1日には、共創実証ラボのオープニングイベントを開始。三井不動産、東京海上日動火災保険、明治、ダイエーなどの複数企業と、NTTデータ社内の新規ビジネスプロジェクトが社員モニターのデータを活用。自社商品・サービスの検証やマーケティング調査などを4月30日まで実施する。
「健康意識が高いとは必ずしもいえない生活者の意識を変えるためには、健康データの利活用によって得られるベネフィットを体感・実感してもらうことが不可欠です。この機会を数多くつくり出すためには、各企業が個別に取り組むだけでなく、同じ志を持つ企業同士が協調し、大きなムーブメントをつくり出していくことが必要です。共創実証ラボを通じて、その動きを加速させていきたいと考えています」(湊課長)
オープニングイベントではさまざまなプロジェクトが展開されるが、そのうちの一つに、「健康」をフックにして商品を買ってもらうにはどうすればよいかを検証する「健康×購買インサイト発見プロジェクト」がある。
このプロジェクトの第1弾として、NTTデータ社内にあるダイエーが運営するレジ無しウォークスルー型店舗「Catch&Go®」をフィールドに、実証実験を開始した。店舗に来店した社員モニターに対して、「健康課題に応じた商品」を複数のレコメンドパターンで提案。提案商品を購入した人・しなかった人などでグルーピングし、グループごとに健康データやアンケート結果を集計・分析する。その結果から商品購入との相関関係などの仮説を導き出し、次のサイクルでさらに検証を重ねていく。
久保佑貴 主任
「医療で使用されている血圧には、高血圧などで治療が必要かどうかを判断するための基準値が設定されています。初めから血圧の基準値があったわけではなく、体のさまざまなデータを取ったときに、病気になる人の血圧の数値が高いという点に着目して仮説を立て、行き着いたのが血圧の基準値です。このプロジェクトでやろうとしていることも同じです。例えば、日頃それほど健康に気を配っていないけれど、レコメンドされた健康に良い商品を買った人たちがいるとします。その人たちの健康データやアンケート結果を分析したら、購買につながる共通項が見つかるのではないか。私たちはまだ答えを持っていませんが、突破口が見つかるのではないかと、ワクワクしています」(湊課長)
心身の健康状態を把握することで最適な商品やサービスが見つかる
これはいわば、マーケティングを再構築することだと久保主任は強調する。
「1人の顧客に注目する『N1分析』がマーケティング業界で注目されていますが、健康データは、まさに一人の顧客を知る特徴的な要素です。その顧客の性格や価値観、体内や心の中を可視化していくことが新たなマーケティングへとつながるはずです。その一つの手段として、健康データがあるのです。健康データに新たな意味合いを持たせる活動は新しいマーケティングの形をつくり、世の中を変えていくと思っています。こうした“健康データ活用が当たり前になる世界”を先行してトライできる環境を持つ私たちと、創業から脈々と受け継がれる思いや熱量を持っているサービス提供企業の両方が重なって初めて、このプロジェクトがうまくいくと思っています。」