顧客体験(CX)と従業員体験(EX)を相乗的に高め、それを事業変革の推進力とすることがグローバルプレーヤーの間ではスタンダードになりつつある。日本ではまだ少ないこうした取り組みを積極的に推進しているのが、富士通だ。なぜ富士通は、全社デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進軸にCXとEXを据えているのか。そこには、日本企業が学ぶべき普遍的な視点があるのか。同社CDXO(最高DX責任者)兼CIO(最高情報責任者)の福田譲氏とCEO(最高経営責任者)室CDXOディビジョンの山口由香氏に、PwCコンサルティングの武藤隆是氏と石浦大毅氏が聞いた。
DXの最終的な目的は、究極のCXを提供すること
石浦 日本においても、DXへの取り組みはすでに一般的になっています。当社が2023年2月、日本企業の幹部約1100人を対象に行った調査(「日本企業のDX推進実態調査2023」*1)でも、「全社的にDXに取り組んでいる」「一部の部門においてDXに取り組んでいる」を合わせると全体の91%に達しました。ただ、「十分な成果が出ている」という回答は、まだ12%にとどまっています。
私たちは、DXで十分な成果を出している企業とそれ以外の企業を比較・分析し、DXを成功に導く七つのキーアジェンダ(主要課題)を導き出したのですが、そのうちの一つが「VoC(顧客の声)/VoE(従業員の声)」の活用です。
武藤 言うまでもなく、DXとは単にデジタルツールを導入することではなく、ツールやデータを使って企業を変革していくことが本質です。何をどう変えるべきかを決めるときに、VoC/VoEを広く集め、それに基づいてデータドリブンで意思決定していく仕組みがあるかどうかで、従業員の腹落ち感やCXが大きく異なります。
富士通では20年7月に全社DXプロジェクト「富士通トランスフォーメーション」(フジトラ)をキックオフすると同時に、VoC/VoEを集め、それをDXに活用する「 Fujitsu VOICE(以下、VOICE)」(*2)プログラムを始められました。まずは、その狙いを聞かせてください。
福田 実はVOICEの名付け親は時田(隆仁社長)で、トップの肝いりで始めたプログラムです。私たちは、DXの最終的な目的はお客さまにポジティブなインパクトを与えること、究極のCXを提供することだと考えています。そのCXをつくり出し、提供するのは当社の従業員ですから、究極のCXの前に、最高のEXを創出することが必要です。
執行役員EVP CDXO兼CIO
福田 譲氏
当社が考える最高のEXとは、会社と従業員一人一人のパーパス(存在意義、志)やビジョンが重なり合っていて、従業員が自分の意思と自律的な行動により、お客さまのために新たなCXをつくり出すことができること、それがお客さまからも会社からも評価され、称賛されることです。そのためには、個人が組織からエンカレッジされ(勇気づけられ)、エンパワー(権限委譲)され、仕事を通じてパーパスを実現できる環境を整える必要があります。そうした環境を経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションからつくり出していく目的で、VOICEを始めました。
このVOICEプログラムでは、従業員のエンゲージメント(自発的な貢献意欲)サーベイやNPS(顧客ネット・プロモーター・スコア)®調査などを実施しながら、VoC/VoEをモニタリングしています。VoC/VoEを多頻度かつ大量に集めて自動集計して、業務データと組み合わせて分析することで課題を抽出し、CXとEXを相乗的に高めていくためのアクションに活用しています。