現場の声を聞くだけでなく、経営層がきちんとアクションを取る

武藤 日本国内においては、CXとEXを別のものと捉えているケースが大半です。しかし、グローバルではCX、EXの向上に一体的に取り組むのがすでにスタンダードになっています。

山口 フジトラを始めた20年と比べると、会社やDXに対する従業員エンゲージメントは明らかに高まっています。それは、単にVOICEでVoEを可視化しているだけでなく、現場の声が経営に届いているという実感があるからだと思います。

顧客体験と従業員体験を軸にDXの壁を突破する富士通
CEO室CDXOディビジョン シニアディレクター
山口由香氏

 例えば、フジトラが主催している社内イベントなどで福田がパーソナリティーを務めるセッションでは、時田をはじめとする経営陣をゲストに招き、VOICEを通じて集めた従業員の声に応えています。また、IT環境を含む働きやすい環境づくりや、サステナブルな世界の実現を目指す当社のグローバルソリューション「Fujitsu Uvance」という名称の決定にもVOICEを活用しました。

福田 その他にも、各部署に関するVoEをポスティング(社内公募)用のオンラインサイトで従業員に公開しています。ポスティングに応募しようと思ったとき、その部署で自分のパーパスに基づいた仕事ができるのか、どんな雰囲気の職場なのかが当然気になりますから、全社公開することにしたのです。従業員が働きがいを感じられる職場づくりをしていないと、ポスティングをしても誰も応募してくれないという事態になりかねませんから、部門長はおのずとVoEに耳を傾けますし、職場の魅力を積極的に発信するようになります。

武藤 VoEを集めるだけでは駄目で、経営陣や幹部がその声に対してきちんとアクションを取っているかどうかでEXが大きく変わります。その意味で、富士通では変革のための意思決定やアクションにVOICEをうまく活用し、全社DXプロジェクトであるフジトラの推進力としていることがよく分かりました。

顧客体験と従業員体験を軸にDXの壁を突破するPwCコンサルティング
執行役員 パートナー
トランスフォーメーションストラテジー/カスタマートランスフォーメーション
武藤隆是氏

石浦 CXとEXを連携させた事業変革を実現するには、具体的にCXとEXをどうリンクさせるかが課題となります。例えば、米国のある商業銀行では、支店、コールセンター、デジタルサービスチャネルにおける顧客満足度と従業員エンゲージメントの平準化を課題とし、顧客タッチポイントのCX変革を実施しました。加えて、各サービスラインにおけるEXのうち、CXを向上させるきっかけを解明することで、CXとEXの連携を図っています。

山口 当社ではVOICEプログラムを始めて以降、累計で約2400回のサーベイプロジェクトを各部署が実施していますが、最近ではお客さまの声を聞くことへの活用が一段と増えています。NPS®調査で鍵になるのは、お客さまの声をいかにフラットに聞くかということです。

武藤 ありがちなのは、いい評価をくれそうな顧客を選んだ上で調査することですね。顧客の評価が、部門の評価や自分の人事評価に跳ね返ってくるのでそういう行動を取ってしまう。しかし、それだとCXの実態を把握することができません。

山口 その点で私が印象的だったのは、社内のCXリーダーが集まる会議の場で「良いスコアを取るためではなく、自分たちのベースラインを知るためにいろいろな層のお客さまを対象に広く調査する」という考え方が浸透してきたことです。仮に前回調査より低いスコアが出たとしても、今の自分たちの実力値を把握し、CXをどう高めるかというアクションにつなげることが大事だという会話になり、NPS®やVOICEプログラムに対する社内的な理解度と成熟度が上がっていると感じました。

福田 四半期に1度、海外を含めた地域を統括する役員、部門長が自分の部署のCXを分析し、どういう対策を取っているかを発表する経営レベルの会議も行っています。やはり、部門のリーダーがCX変革を自分事として捉えると、現場への浸透も速いですね。