建設業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を重点課題とした取り組みが進んでいる。大林組と大林グループは、デジタル化を核とした新たな業務プロセスの実現やDXによるビジネスモデルの革新、それを支えるデジタル基盤変革を推進するため、社長直轄の本部組織として2022年に「DX本部」を設置した。同本部ではさまざまな施策を打ち出しているが、今回は新規入場者教育に導入した3Dアバター動画作成サービス「PIP-Maker(ピーアイピー・メーカー)」の活用事例を紹介する。
建設業を取り巻く三つの課題をデジタルで解決
デジタル教育を充実させ、デジタル知識を持つデジタル人材の育成を目指す──。大林組ではデジタル教育の重要性に着目して、2021年2月から社員がデジタル関連の知識を習得するための支援策を実施している。
デジタル戦略企画課 兼 デジタル教育課
倉形直樹 課長
背景にあるのは、建設業が直面する三つの課題=①長時間労働の是正、②建設業就業者数減少、③属人化の課題、である。大林組DX本部本部長室デジタル教育課の倉形直樹課長が説明する。
「一つ目は24年4月から建設業でも時間外労働の上限規制が適用されること。長時間労働の是正が急務です。二つ目の建設業就業者数の減少については、労働集約型の建設手法を抜本的に見直して新たな手法を見いださないと、当社のビジネスモデルの存続自体が難しくなってくるだろうという危機感があります。最後の属人化の課題においては、主力世代の引退に伴って多くの知識や技工が失われていく懸念があり、知識や技術の体系化と継承が非常に重要になっています。この三つの課題に直面する中で、一層の生産性の向上を図るための一つの手段がデジタルです」
そこで大林組では、デジタル教育を通じてデジタル人材の育成に取り組んでいる。“デジタル教育=eラーニング”と捉えがちだが、大林組の場合はオンライン研修が中心だという。
「eラーニングの場合、同じ時期に何本も配信してしまうと、社員は『似たような内容のものが幾つも来ている』という“おなかいっぱい”の状態になってしまう。そこでデジタル教育課では、オンライン研修を中心に据えて社員が研修内容を“自分ごと”として捉えやすいような工夫をしています」
ところが、そこに「時間」という大きな壁があった。「事務局からの案内や研修の注意事項説明などを全てリアルで行うと、研修担当者がその時間その場に常にいなくてはならないし、内容をスムーズに伝えられるように事前の予行演習に時間を割く必要がありました」。
“時間の壁”を同社はどう克服したのだろうか。次ページでは同社のオンライン研修におけるデジタルツール活用について詳しく説明する。