ニーズに合ったツールの選択と現場の負担を減らす配慮
そこで大林組では、4COLORSの資料動画作成システムツール(アバターソリューション)「PIP-Maker(ピーアイピー・メーカー)」を導入した。PIP-Makerには、①パワーポイントのファイルをアップロードするだけで動画が作れる、②慣れないと難しい語りは、3Dアバターが代わりを務める、③動画を再生するだけではなくてインタラクティブ(双方向)にも使える、といった特徴がある。
「研修をうまく回すためのツールとしてPIP-Makerを使い始めました。すると担当者がその時間、その場にいなくても対応できるようになり、時間の効率化が進みました。そこで次に、研修が始まる前の待機時間を使って、PIP-Makerで作成したCMを流すようにしました。例えばITパスポート試験(ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験)の過去問題を流したり、他の研修の告知を流したりしたところ、興味を持つ社員が増えたのです」
山縣 進 リーダー
4COLORS CS部の山縣進リーダーは、大林組のPIP-Makerの使い方の工夫を高く評価する。
「デジタル化を志向する企業は多いのですが、なかなか社内に浸透しないという課題を抱えています。大林組が成果を上げられているのは、何を残して何をデジタル化するか、という取捨選択の基準が明確にできているためです。PIP-Makerはeラーニング用ツールとしても活用できるのですが、実はシンプルであるが故の汎用性の高さが強みで、大林組のようにeラーニングにつなげるためのクッションとしても役に立つのです」
大林組 土木本部先端技術推進室ICT生産支援センターの高橋寛課長は、「デジタルツールの使い分けが大切」と指摘する。「全ての素材をデジタル化する必要はなく、ニーズにマッチしたツールを選んで使うことが大切です。例えばリアルな映像が必要な場面では、素直にウェブカメラの映像を使えばいいのです」。
ICT生産支援センター 現場支援第一課 DX本部 生産デジタル部(兼務)
高橋 寛 課長
ここで必要なことは、現場に負担をかけないための十分な配慮だ。高橋課長が続ける。
「“土木現場の通訳”というイメージです。現場が何をしたいのかを私たちに伝えてくれれば、用途に最適なツールを選び、映像・動画の場合は編集まで行います。完成したものを現場に見てもらって、ここは重要だから強調してほしい、これは省いてもいいというやりとりを重ねて、完成度の高いものに仕上げていきます。こうしたやりとりの中で、お互いに頭の中が整理されるという副次的な効果もありますね」
4COLORSの山縣リーダーは、“現場の通訳”という解釈に深く首肯し、「第三者目線で見ると、現場の各担当者に作ってもらう方が効率的だろうと思うのですが、一番効率的だからうまくいくかというと決してそうではない。DX推進に課題を抱える企業の多くは、DXを目的と捉えている事が多いですが、大林組は達成したい目的のためのデジタルツールの導入・活用を“手段”と位置付けている。本部で作って提供する方法がベストであるという判断をした上で、ツールを導入・活用されているところが素晴らしい」と話す。