MSOLでは、PMO人財の提供、効率の良いプロジェクトマネジメント(PM)のためのソフトウェア提供に加え、自社でPMするための社内人財を育てるトレーニングも行っている。クライアント企業がプロジェクトを自走できるようになることを最終目標として、伴走しているのだ。

 その企業のPMをサポートする戦略が人気を集め、上場前は100人程度だった同社の社員は、19年の東証一部上場を経て、現在では1000人規模にまで拡大した。同社のPM実行支援を担うコンサルタントは、そのうちの800〜900人を占めている。

  そうしたなかでMSOLが体験した成長痛は、人財情報管理にあったという。人数が少なければ、人財情報管理はExcelでも事足りる。しかし1000人規模となると、そうはいかない。顧客企業ごとに、業種別のドメインの知識を持ち、経験とスキルを備えたコンサルタントを的確にアサイン(配置)することができなければ、MSOLの提供価値そのものが消滅してしまう。そうした悲劇を防ぐためにも、早い段階での本格的な管理システムが必要だった。

 MSOLの創業者であり代表取締役社長兼CEOである高橋信也社長は、まだ100人規模だった段階で、その必要性を直感したという。

「時期尚早ではないか」

 そうした社内の異論は少なくなかったが、高橋社長が信念を持って押し切って生み出したのが、戦略人財マネジメントシステム ハーソルだった。そして100人程度のこの段階から将来の会社の成長を見据えたシステム導入を開始したのである。

 高橋社長の視線は、将来の1000人規模体制にすでに向いていたのだ。

 しかしハーソルの本格的な社内実装のためには、いかんせん人財が不足していた。そこで白羽の矢が立ったのが、地方行政機関で1000人規模のITインフラおよび人事業務を手掛けていた目黒広和・コーポレートIT部長だった。

100人体制では不要、1000人体制では不可欠な人事システム

「7年前に入社した当時のMSOLは100人規模の企業で、人事・総務面の課題が少し見えてきた程度の状態でした。ただ大企業のプロジェクトを支援するには、プロジェクト経験、スキル、知識など、PMO人財固有の情報を正しく活用して、顧客企業へ最大の貢献ができるチームを配置しなければなりません。

 当時のMSOLの人財情報管理は、Excelを使用していました。現状はそれでもしっかりと機能していましたが、将来的な1,000人体制を考えれば無理があります。特にMSOLならではの、特殊かつ詳細なデータ管理ができる人財マネジメントシステムの構築が、私に与えられた役割でした」

企業の成長を押し上げる「システム開発」。スピーディーかつ柔軟に進めるために欠かせないものとはマネジメントソリューションズ
コーポレートIT部
目黒広和部長

 そう語る目黒部長はまず、各部門長の下に足を運び、現場の状況把握から始めたという。そして、人事に役立つ人財データベースの構築に手を付けた。

 ただ企業成長による社員数の増加で、MSOLの人財管理が難しくなっていく。全員のスキルや担当する案件などのデータを管理しきれなくなってきたのだ。

「人財データベースや案件をExcelで管理する限界がきていました。そのうえで人財稼働状況や保有スキル、案件情報の一元管理も実現していく必要がありました。さまざまな問題が現場で生じ始め、まさに成長痛がやって来た感がありました。

 もちろん既存のSaaSの活用も考えましたが、MSOLの行いたい人財管理を実現するには機能が不足していました。SIer(エスアイヤー/総合システム開発会社)への委託という選択肢も考えましたし、内製化も考えましたが、かかる期間やコストなどのハードルが高く、八方ふさがりの状況でした」(目黒部長)

「戦略人財マネジメントシステム」を生み出すために必須だったジェネクサス

 そうした山積していた課題を、その時期において適切に解消するために17年にスタートしたのが、戦略人財マネジメントシステム ハーソルだ。

 19年の同社の上場時にも、人員の大幅増加に伴う成長痛を、アサイン管理機能の追加などによるハーソルの大型バージョンアップによって切り抜けることができたという。いまやMSOLの心臓とも言えるハーソルとはどのようなシステムなのか。目黒部長はそのポイントを、以下のように説明する。

企業の成長を押し上げる「システム開発」。スピーディーかつ柔軟に進めるために欠かせないものとはアクア
張 宏斌 代表取締役

 「MSOLが必要としていたのは、自社のケイパビリティを存分に発揮することができる人財マネジメントシステム。自社のコアコンピタンスの持続を実現できるシステムで、開発期間が短く、成長時期に合わせたフレキシブルな対応が可能で、かつ予算が膨らまないものが理想でした。

 その突破口となったのが、ジェネクサスです。私たちが直接そのツールを使って企業向けソフトウェアを開発するわけではありませんが、このツールの存在がなければ、ハーソルは生まれていなかったかもしれません」

 ジェネクサスは専門的で難解な開発言語(Java、C#など)を必要とせず、最小限のコードを書くことだけでシステム開発が可能な、近年トレンドとなっているローコード開発ツールの一つだ。そのツールを駆使して、アジャイルな開発を実践していたのが高橋社長と親交のあったアクアだった。同社の張宏斌代表取締役が、MSOLへのハーソル導入当初を振り返る。

「最初は、高橋社長からの、人員拡大を前提にMSOLに適した『人事システム』を開発したいという相談でした。従来のウォーターフォール&スクラッチ開発手法で行うと当然、莫大な時間とコストがかかります。一度作ってしまったシステムを改変するのも大変です。ただ私は、すでにそうした常識を覆すジェネクサスを使用して、成果を上げていました。しかし『開発スピードやコストが圧倒的に違います』と言っても、MSOLの誰もが半信半疑でした。

 ところがフェーズ1に着手し、通常は半年以上かかるシステムをわずか3カ月で完成させたら、皆さんの目の色が変わりました。ジェネクサスの持つ可能性を実感し、そこからMSOLとアクアで密なコミュニケーションを重ねることで、MSOLの業務内容と希望に合致したハーソルが生み出されたのです」