高輪の成否が不動産の命運握る
今後は駅以外の土地も開発へ

 JR東日本は19年から、20年に開業した高輪ゲートウェイ駅前の土地を開発している。総延べ床面積は、六本木ヒルズの72万平方メートルを上回る84万5000平方メートルと国内では最大級となる。

 高輪ゲートウェイシティは、ツインタワーでオフィスや商業施設などが入る複合棟Iと、複合棟IIに加え、住宅棟、文化施設で構成する。複合棟Iの高層階には、ホテル世界最大手の米マリオット・インターナショナルの最高級ブランドの「JWマリオット・ホテル東京」も入居する。

 不動産事業の成否を左右する巨大プロジェクトで大きな課題となるのがテナントの確保である。

 今年5月、東京都内で開かれた記者会見で、JR東日本の深澤祐二社長とKDDIの髙橋誠社長が握手を交わした。会見では、KDDIが25年春をめどに、本社を高輪ゲートウェイシティに移転することが発表された。一つの複合棟の延べ床面積の約7割をKDDIが占めることが決まった。

 不動産業界関係者は「とにかくJR東日本の物件は立地が良いことに尽きる」と話す。高輪ゲートウェイシティの土地も、もともと車両基地で、都心ではこれほどまでの好物件は存在しない。テナント集めにとって最大の鍵となる立地は申し分ないのだ。

 ただし、不安がないわけではない。一つが、市況の動向だ。東京都心5区のオフィスの8月の空室率は6.4%で、供給過剰の目安とされる5%を大きく上回っている。リモートワークなどの浸透を背景にオフィスを縮小する動きは、今後も進む可能性がある。

 さらに、高輪ゲートウェイシティが開業する25年はオフィスの大量供給の年にも当たる。供給量は多かった今年を上回る見通しで、強気なリーシングでは、テナントを集められない恐れがある。

 また、今年3月に開業した東京ミッドタウン八重洲の影響も受けかねない。前出の関係者は「開業時に満床にするために、初期費用の値下げなどでテナントをかき集めたので、テナント需要が足元では大幅にしぼんでいる」と指摘する。テナント需要が戻るかどうかも懸念材料だ。

 JR東日本は国内外のスタートアップの入居も呼び掛ける。ただし、スタートアップの取り込みは、東急や東急不動産が渋谷の自社開発のオフィスに次々と集めるなど先行している。「都心でもエリア間競争が激しい」(競合の鉄道会社幹部)中で、テナントの確保策の巧拙が問われることになる。

 不動産事業の拡大には「ポスト高輪」も課題となる。別のJR東日本の関係者は「高輪と新宿の後には『駅チカ』の土地で開発できる場所がない」と話す。つまり、高輪のような超好立地は出尽くしたということだ。

 ボトルネックの解消に、JR東日本が検討を進めるのが、自前での用地取得や開発だ。同社のマーケティング本部まちづくり部門品川ユニットの天内義也マネージャーによると、これまでは、自社が保有する用地の開発を進めてきたが、今後は駅の周辺エリアの土地の取得に乗り出すという。自前での土地の仕入れと開発に加え、他のデベロッパーとの共同事業として取り組むケースも想定しているとみられる。

 駅用地以外のプロジェクトはすでに始まっている。今年2月、JR東日本は遊休資産の開発をパートナー企業と進めていくと発表した。第1弾として、東急不動産ホールディングスと組み、千葉県船橋市にある4万5000平方メートルの社宅跡地で、住宅や商業施設などへの大規模開発に乗り出すことになった。実は、第2弾となる東京都八王子市内の大規模開発も近くパートナー企業と共に公表される見通しだ。

 駅用地以外の開発にも乗り出すJR東日本は、不動産デベロッパー色が強まっていく見通しだ。JR東日本は28年3月期の不動産・ホテル事業の営業収益を5070億円に引き上げる考えで、専業の不動産デベロッパーと比較すると、三井不動産などの財閥系には及ばないものの、国内ではトップ10には入る規模となる。

 不動産事業を拡大していく上で、欠かせないのが不動産人材の育成や確保だ。高輪のプロジェクトには約60人体制で臨んでいるが、いずれもJR東日本のプロパーや子会社からの出向といったグループ内の人材だ。これまでは自前の人材のみで事業を進めてきたのだ。

 JR東日本の人財戦略部の滝沢雅子マネージャーによると、今後外部から人材を確保する可能性もあるという。JR東日本は来年度の採用から、不動産やデータマーケティングなどの領域でジョブ型雇用を開始し、新卒と中途を合わせて最大100人を専門人材として採用する方針だ。

 とはいえ、現状の待遇は専業の不動産デベロッパーには大きく劣るのが現実だ。財閥系のデベロッパーでは30代半ばで2000万円プレーヤーも存在するのに対し、JR東日本では「不動産部門の30代半ばの社員は年収800万円前後」(別のJR東日本社員)で、半分以下にとどまる。大規模プロジェクトに関われるというやりがいはあるかもしれないが、大きな待遇の差は、専門人材の流出も招きかねない。ジョブ型なども活用しながら、不動産人材をどう育成・確保していくかが課題となる。

 鉄道事業の先細りが進む中で、非鉄道事業の強化は急務だ。JR東日本が推し進める大胆な不動産シフトの成否に注目が集まる。

Key Visual by Kaoru Kurata

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