海苔商売一筋の加藤さん夫婦。普段は夫・洋一さんは工房で海苔商品作り、妻・玲子さんは南行徳駅前の店舗で販売を担当している

小規模な企業の経営者や個人事業主は日々全力疾走している。自分が先頭に立って指揮をしないと仕事が回らないからだ。しかし、どんなに精力的に働く経営者であっても、いつかは引退のときを迎える。そのとき、ゆとりある老後を過ごすための十分な退職金を手にすることができるだろうか。千葉県市川市南行徳で90年続いている老舗海苔(のり)店の経営者が“発見”したある対策とは。 

食生活が様変わりして
家庭で海苔を食べる習慣が少なくなった

 地下鉄東西線「南行徳」駅の目の前に店舗を構える加藤海苔店は、千葉県沖三番瀬で採れる希少な行徳海苔をはじめ、全国の海苔産地から仕入れた焼き海苔やオリジナルの海苔商品を販売している。創業は1933(昭和8)年。代表取締役は加藤洋一さん。海苔の商売は祖父が本家から独立して創業した。

 加藤さんが「三代目海苔蔵」を名乗るようになったのは1987年。そこから加藤海苔店の新商品開発が始まった。「二代目である父の時代まではよく見掛ける板海苔を販売していれば良かったのですが、私の時代になって食生活が大きく変わり、朝はパン食。ご飯食の家でも海苔が食卓にのることは少なくなりました。そのため、板海苔ではない新商品を作らなければならないと思うようになったのです」。

 「これが新商品です」と加藤さんが手に取ったのは、「玄(gen)」と命名した味海苔シリーズ。家庭用と贈答用を想定し、缶詰の缶を使ったパッケージが新鮮で、高品質の海苔を使っているため口どけが良く香りの余韻が長い。「玄」の他にも、特に良質の海苔を吟味し、自社工房で焼き上げた焼き海苔シリーズとして、「江戸前 焼きのり三番瀬」「板のり 行徳産 やっぱり行徳でしょ!」などの商品を開発した。

缶詰の缶の中に焼き海苔が入った独自商品「玄」。味付けは、醤油、バター風味、塩コーン、唐辛子、ブラックペッパー、瀬戸内れもん……など11種類の味があり、それぞれに固定ファンが付いている。おやつや酒のつまみとしてもうまい

 また、加藤さんは地域貢献にも熱心で、一つ例を挙げると、千葉商科大学付属高等学校商業科の生徒が進めている「価値創造プロジェクト」の中で、海苔を使った商品開発に協力している。新商品開発にも熱心で商売は順調、地域からも頼りにされる加藤海苔店だが、加藤さんは「家族からあるパンフレットを渡されてハッとなった」と打ち明ける。

 加藤さんが知らなかったゆとりある老後のための制度とは?