「市民に愛され、市民に貢献する」という企業理念の下、当時最高レベルの技術を結集して1995年に誕生した腕時計が「ザ・シチズン」。「The CITIZEN」という定冠詞付きのブランド名になっているように、それぞれの腕時計には企業の思いが色濃く反映され、“シチズンの神髄”と呼ぶにふさわしい技術の粋が投入されてきた。高精度・高品質と日本ならではの美が融合したその最新作を紹介する。(文=菅原 茂 写真=奥山栄一)
年差±5秒の高精度ムーブメントと、土佐和紙にプラチナ箔を施した文字板
2023年11月発売の最新作の「ザ・シチズン」は、年差±5秒の高精度光発電エコ・ドライブムーブメントと、土佐和紙にプラチナ箔を施した文字板を組み合わせた限定モデルである。
腕時計の動力にクリーンエネルギーの光を活用する革新的な方式とクオーツによる精度の向上は、シチズンが1970年代から研究開発に取り組み、長年にわたり磨き上げてきた先進テクノロジーに他ならない。その成果を語るのが、このモデルに搭載されている年差±5秒のエコ・ドライブムーブメント「Cal.A060」だ。
1日当たりの誤差が約100分の1秒という驚異的な高精度は、機械式は言うに及ばず一般的なクオーツムーブメントをはるかにしのぐ正確さ。光発電によるムーブメントでこれほどの高精度を実現する腕時計は世界でも極めてまれである。シチズンが高精度を追求する理由は、時計にとって最も重要なのは正確さであり、正確さに時計が持つ普遍的な使命があると考えるからだ。
言い換えれば、時計の本質はまさに正確さ。「ザ・シチズン」が挑む一つに「次なる理想の精度」があるが、それを物語る成果が年差±5秒なのである。さらに日付表示に西暦2100年2月28日まで人為的修正が不要なパーペチュアルカレンダー機能があり、また海外で使用する際に時計を止めずに時針のみを1時間単位で移動して現地時刻に変更できる時差設定機能も備わり、実用面でも便利この上ない。
同時に、この「ザ・シチズン」の独自の個性を演出するのが和紙による特別な文字板である。
光を透過し、真っ白な文字板の表現を可能にする和紙は、高級感の演出や日本的な美意識の表現に最適なだけでなく、光発電エコ・ドライブのシステムにとっても理想的な素材だ。最新の限定モデルでは、この和紙文字板に「砂子蒔き(すなごまき)」と呼ばれる技法で粉末状のプラチナ箔を施し、雪が舞い散る情景を思わせる。こうして時計の先進技術と伝統工芸による美の世界を絶妙に融合した最新作は、「ザ・シチズン」独自の価値を一段と高めるものになっている。
次ページでは、「ザ・シチズン」が受け継ぎ、また新たに導入してきた“日本ならではの精緻な技術と匠の技”について詳しく解説する。