日本企業製という強みを生かして
米国市場に参入
海外の主要子会社としてはベトナムに太陽光パネル生産工場を展開するVSUN(Vietnam Sunergy Joint Stock Company)がある。太陽光パネルを生産する4工場が稼働しており、11月からは太陽光パネルの主要部品であるセルを生産する第5工場(投資額435億円)が稼働した。「これまでセルは他社から調達していたのですが、第5工場で内製化することにより、主要部品の安定供給が可能になりました」。
そう話す龍CEOは、太陽光パネルの生産をベトナムで行う大きな理由として、「太陽光パネルの激しい価格競争」を挙げる。「15年前、500ワットのパネル1枚の価格は約20万円でした。個人住宅では6枚必要なので120万円です。今は1枚1万5000円程度なので9万円。生産コストを抑えられるベトナムに自動化の進んだ工場を建てた結果、価格競争力を高めることができました」。
世界的な脱炭素志向や政府のエネルギー安全保障強化姿勢という追い風を受けて販売量が爆発的に増え、Abalanceの業績は絶好調。21年10月に発表した中期経営計画(FY2022-24)は初年度に最終年度の売上高を達成したことから、次の中期経営計画(FY2024-26)では売上高24年6月期2518億円・営業利益158億円、25年6月期3018億円・258億円、26年6月期3558億円・308億円という大幅な増収増益を見込んだ強気の計画を立てたほどだ。
内製化によって部品の生産国証明が容易になったことは、対米輸出対策としても有効だ。米国は中国製品の輸入を制限しているため、日本メーカーが自社のベトナム工場で生産する太陽光パネルは米国市場で受け入れられやすく、大きなシェアを獲得する可能性が高い。ただ、米国は国内生産を積極的に奨励しているため、龍CEOは「米国工場の建設も視野に入れて候補地を視察している」と、早々に次の手を打っている。VSUNは24年、米NASDAQ上場を控えており、実現すれば米国市場での知名度も高まるはずだ。
龍CEOは「富士山が大好き」だという。Abalanceのロゴにも富士山が使われ、最初の就職先もオフィスから「富士山が見える会社」だったという。龍CEOの富士山愛は、日本愛にも通じる。「太陽光発電事業を通じて日本の再生可能エネルギー普及を進め、脱炭素社会の実現にも貢献したい」。その目標は富士山同様に高いが、頂上へ向けて着実に歩きだしている。
コラム
福島原発の危機を救った 大キリン
東日本大震災直後に発生した東京電力福島第1原発事故。原子炉建屋内の使用済み核燃料プールの水が核燃料の発熱で蒸発し、爆発寸前という深刻な状態に陥っていた。自衛隊の散水ヘリや消防署の高圧放水車は歯が立たず、62メートルアームを持つ中国・三一重工製のコンクリートポンプ車「大キリン」(写真)などの注水でなんとかしのいでいた。この大キリンは危機を知った龍CEO(当時はWWB代表)チームが三一重工と交渉し、発注元のドイツの顧客に了解を得て上海から日本に運び、関係各所との複雑な調整を経て現場へ運んだもの。遠隔操作で動く大キリンの注水の効果もあり、原子炉の温度が下がり爆発の危機は去った。数年後、小泉純一郎元首相は龍CEOを食事に招き、「日本人の命の恩人」と感謝したという。