米国で注目されている「スキルベースの人材マネジメント」とは

 人手不足に直面する米国は、「ジョブ型」から「スキルベース」のマネジメントにシフトしようとしている。企業が定義したジョブに適合する人材を雇用し、必要なジョブが変われば解雇して新たに適合する人材を探すやり方は、労働市場に人材が豊富にいない状態では通用しなくなってくる。「『このジョブに合う人』を探すのではなく、『この人がどんなスキルを持っているか』をベースにしてジョブを柔軟に組み替えることで、空いたジョブを埋めていくことができる」と安斎CEOは説明する。

米国でジョブ型は限界、日本の人材余力はスキルで活かすXさんは、ジョブ型で生かし切れなかった余剰スキル(オレンジ)を活かしてJob Cにも従事できる。YさんはJob Bで定義されるスキル要件を満たさなかったが、他のZさんの持つスキルと組み合わせることでJob BとDに従事できるようになる
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 スキルベースマネジメントを実現するには、人それぞれの既得のスキルだけでなく、今後の学びや経験で得る新たなスキルを総合的に分析・評価し、一人ひとりのリスキル・スキルアップを支援する必要があるが、「生成AI(人工知能)」に代表されるAIの急速な進化によって、それも実現可能となりつつある。米国のHRテック領域で、スキルベースマネジメントとともにAIの活用が最もホットなテーマとなっているのには、そうした事情もあるようだ。

実は日本は「人手」不足ではない? 足りないのはスキルを持った人材

 では、こうした米国のHRテックの潮流を日本はどう捉えるべきか?

 安斎CEOは、「米国など海外のトレンドを踏まえつつ、日本の事情に合わせたHRの在り方を模索すべきです」と提言する。

 まず、安斎CEOが提示したのは日本の労働市場の現状である。日本は米国以上に少子高齢化が進んでいるので、人手不足もより深刻だろうと思い込みがちだ。しかし、米国とは対照的に、日本のGDPは低下傾向にある一方で、労働力人口は過去10年で300万人以上も増加しているのだ。

 このような状況を踏まえ、安斎CEOは「日本の企業が抱えている問題は、『人手不足』というよりも『人材不足』です」と分析する。

米国でジョブ型は限界、日本の人材余力はスキルで活かす日本は「人手不足」というより「人材不足」
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「ある人材サービス会社の調査によると、『必要なスキルを持つ人材の確保に苦労している』と回答した企業の割合は78%にも上りました(※1)。労働力人口はあれど、求める能力を持った人材がいないと多くの企業が悩んでいるのです」(安斎CEO)

 そんな状況の中で、日本では多くの企業が「ジョブ型雇用」への移行を進めているようだ。WHIの調査によると、「ジョブ型を導入、または検討予定」と回答した企業は58%にも上った。

 移行の目的は「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」(※2)など、人材の強化が主である。

 確かにジョブ型には、ジョブの内容と、その遂行のために求められるスキルを明確に定義し、人材のミスマッチを防げるメリットがある。だが、米国の完全なジョブ型がすでに限界を迎える中で、日本もジョブ型へ移行するだけで良いのだろうか。

(※1)ManpowerGroup「日本の雇用予測調査結果2023年第2四半期」
(※2)パーソル総合研究所「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」