実は、日本のメンバーシップ型はスキルベースマネジメントに類似
安斎CEOは、「実はメンバーシップ型には、スキルベースマネジメントと非常に似通った点があります。多くの日本企業は古くから、職務ごとに合った職能を社員に身に付けさせるため、社内教育制度を充実させてきました」と語る。
安斎 富太郎 代表取締役最高経営責任者(CEO)
慶應義塾大学卒業後、日本アイ・ビー・エムへ入社。 社長補佐、IBM米国本社勤務、公共・公益・通信メディアサービス事業部長、NTT事業部長を歴任。 その後、デル日本法人代表、SAPジャパン代表取締役社長、アルテリア・ネットワークス代表取締役兼CEOを経て2020年より現職。
実際、労務行政研究所の調査では、職能資格制度を導入している企業の割合は回答企業の66%以上(※3)にも上る。また、総務省の「令和3年版情報通信白書」によると「デジタル人材の確保・育成に向けた取り組み」として、米国とドイツ企業の多くは「新規採用」を挙げているのに対し、日本企業の多くは「社内外研修の充実」によって人材を確保すると答えている。日本企業では「人材は自分たちで育て上げる」という意識が高いことが分かる。
「もともと日本の人事制度は終身雇用を前提としていたので、社員を継続的に教育し、それに合わせたキャリアパスを継続的に提供する仕組みになっています。社員の成長を促すため、上司がメンタリングや評価を行う仕組みもあります。個人の持つスキルをもとに、今後の育成も見据えてジョブを振り分けるスキルベースマネジメントとの親和性は、極めて高いといえます」(安斎CEO)
日本に適しているのはジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド型
一方でジョブ型には、ジョブとスキルを明確に定義し、人材の流動化を促進できるメリットがある。「この二つを組み合わせることで、組織のアジリティを高め、従業員の自律的なキャリア形成を後押しできる。そして、将来的な事業構造の変化に対応する、動的な人材ポートフォリオ構築を可能にします」と安斎CEOは語る。
これが、安斎CEOが提言する「ジョブ型」と日本独特の「メンバーシップ型」の“いいとこ取り”をしたハイブリッド型人事制度の導入である。
このハイブリッド型人事制度を機能的にワークさせるためには、やはりAIの活用が不可欠である。社員を長期にわたって育て上げる日本企業には、社員一人一人のパネルデータが充実している。それをAIで抽出し、体系化、言語化すれば、ジョブとスキルのマッチング精度をより高めることができる。これまでに蓄積してきた貴重な資産を活用しない手はない。
日本企業に適した人的資本マネジメント製品を追求
「25年以上にわたり日本の人材戦略を支援してきた当社の知見を活かし、日本企業のハイブリッド型人事制度を実現していきます」と安斎CEOは語る。
大手法人向け統合人事システム「COMPANY®」を提供するWHIは、ユーザーである約1,200法人グループの人的資本マネジメントを支えている。2023年には、ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド型人事制度への対応、人的資本開示の支援、従業員のキャリア・モチベーション把握など新たな機能を大幅に追加した。今後、ジョブローテーションや後継者育成など、日本特有の制度とスキル管理を組み合わせた「日本版スキルベースマネジメント」も開発していく。
また「COMPANY®」は約490万人、2300項目を超える従業員データを管理し、平均利用年数は11年を超える。今後ユーザーの同意を得ながら、このデータ基盤を活かし、人事領域でのAI活用にも着手していくという。
安斎CEOは、「企業から見るとタレントマネジメント、エンゲージメント、教育と呼ばれている領域は、働く人から見るとキャリア、やりがい、学び。違った見え方をしています。大事なことは、働く人と会社をどう結び付けるか。『人』と『企業』の双方に向き合い、全ての人が真価を発揮できる社会を実現していきます」と抱負を語った。
(※3)労務行政研究所「等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態(2022)」より、1000人以上の規模の企業が一般社員に対して導入している制度