山田 たしかに日本企業は、異質なものを取り入れた新たなビジネス生態系を作ること、いわば「ヨコをつなぐ力」が弱いと言えますね。しかし、複雑な時代だからこそ、多様なメンバーの知恵を取り入れる仕組みは不可欠です。何でも自前主義を前提に、よいモノを作っていれば必ず売れるという時代は、とうに終わってしまったのですから。

冨山 そのためにも、「従業員の多様性」をどれだけ担保できるかが重要です。とにかく、組織の壁を緩やかにすること。同質化すると、どうしてもイノベーションは起こりにくくなります。外部からの空気も含めて、組織のなかに多様性を取り入れる仕組みを作れるかどうか。これが、日本企業がいま一番すべき挑戦だと思います。

中高年こそ、
能力主義できちんと評価する

山田 最近、イノベーションとか言うと、若者へ檄を飛ばすというか、日本経済や日本企業の再生を引っ張っていくのは若者だ、といった論調が多いと思いますが、本当にそれだけなんでしょうか? 私はむしろ、高齢者を活かすことが重要ではないかと感じています。社内に大勢いる中高年をどう活性化させていくか、それが経営者として大きな課題でもあるのです。

冨山 実は、かつて僕は、「中高年を希望退職で一斉に切ってしまえばいい」ということを言っていたときがありました。ただ最近、それは非常に危険だと思うようになりました。なぜなら、ある世代を水平に切り取るというリストラは、日本企業が蓄積してきた連続的ノウハウに不連続を起こしてしまうんです。これでは連続のイノベーションを極めることはできません。だからこそ最近僕は、「リストラをやるんだったら、縦に切れ」というのが持論になりました。切るなら、人ではなく事業だということです。

 たとえば、家電メーカーのテレビ事業が苦戦しているのも、事業を売却したくないがゆえに、熟練した50代を一律に切ってしまったから。そういう人たちが中国や韓国のメーカーに行ってしまえば、連続のイノベーションは結果的に、他国に盗まれてしまうことになるのです。

山田 たしかに事業ノウハウを継承していくためにも、人材に不連続を起こすことは望ましいことではありませんね。しかし一方で、団塊世代の大量退職もあり、人手不足がすでに始まっている企業もあります。そういう意味でも、定年退職者の再活用も含めて、連続のイノベーションを極めるための人材確保が大切ですね。

冨山 そのときに重要になるのが、中高年の能力をどこまでフェアに評価できるかです。従来の年功序列制度のなかでは、中高年層は一律に高コストの労働力と見られてきましたが、中高年層こそ能力に大きな差があります。むしろこれからは、この中高年層こそ極めて真剣な能力主義にして、優秀な人にはきちんと報いるべきです。反対に、若年層は年功序列でいい。20代なんていわば給料をもらって勉強をしている世代なわけだから。まあ、30代半ばぐらいまでは、従来の年功序列制でもいいのではないかと思います。とにかく企業は、従業員一人ひとりの能力をきちんと評価できなければなりません。一律に55歳以上、希望退職というリストラしかできない経営は無策そのものです。僕自身の反省も込めてですが(笑)。

山田 能力主義を若い人だけの議論にしているのはもう古いということ。これからは実力ある中高年層に、組織のなかで大活躍してほしいと考えます。