森田 働くことは生き方につながるとお話ししたように、部署、職種、職位、世代などの違いを力に変え、個人と個人がつながり、価値を創出する働き方。私たちは、これを「ウィデンティティ※」と呼んでいます。(※ウィデンティティ…「人と人が活かし合う」社会の実現に向けて、個がつながり「わたしたち(We)」としてのアイデンティティが発揮できる働き方を表現したオカムラが考えた造語)

 新オフィスは、3フロアに分かれていますが、コンセプトのウィデンティティを最も体現しているのが26階のコーポレートフロアです。ここは、北村さんがデザインを担当し、役員も従業員もフラットにつながる空間になっており、トレンドの「働きがいを高める」「利他と多様性」などを働く中で感じています。

「トレンド」を体現するデザインの工夫とは

【使いやすさの追求】「手前には座って仕事ができるデスク、奥では立って仕事ができるなど、健康に配慮しながらいろいろな姿勢で仕事ができる環境を提供しています」(森田) photo by Nacása & Partners Inc.

――この26階のデザインをする際、意識したことはありますか。

北村 役員は役員室、従業員はデスクが居場所という概念を取り払いました。多くの場合、役員室は閉ざされています。

 でもここでは、従業員が出入りできるフロアの中心に、ガラス張りの個室を役員室として配置しています。役員室に透明性を持たせることで、役員自らオープンスペースで従業員と仕事をする流れを自然とつくり出していく。従業員は、役員の仕事ぶりを見て、自分の仕事の意味を感じる。つまり「働きがいを高める」にもつながります。

(写真1)【働きがいを高める/利他と多様性】「お茶を飲む場は木を主体に設計しました。社内はもちろん海外のVIPや来客をもてなすなど、世界に向けオカムラの高品質を発信できる場でもあります」(北村)。 「組織の根底にある公平さを従業員が体現できるようにデザインされた空間だと思います」(森田)

 こちらのお茶を入れながら交流できる空間(写真1)も、役員と従業員がなにげない会話ができるよう工夫しており、職位や世代を超えた「利他と多様性」にもつながります。オフィス空間にこのような場所があることで、社内の風通しも良くなるはずです。

森田 この26階は、従業員の声を反映していると思います。実際、「以前の役員フロアは近寄り難かったが、新しい26階では役員によく話し掛けられ、フランクな感じがする」「役員の姿が見えて、距離が縮まった」など、社内からポジティブな声が上がっています。 

 北村さんもおっしゃるように、役員が誰と会っているか、どんな仕事をしているかを「見える化」したことで、自分の仕事への向き合い方も変化し、自律的に動こうとしています。こうした工夫の数々がトレンドにある「働きがいを高める」につながっていると感じています。

北村 空間が変わり、役員と従業員が物理的に近づくことで、概念的な垣根が低くなったのではないでしょうか。気軽に声を掛け合うなど、働く人たちの行動の変化は起きています。今回、社長が旗振り役として、オフィスを使う誰もが公平さを感じられるようにしているので、このメッセージは従業員にも伝わっているはずです。

――役員と従業員の垣根をなくす以外の工夫はありますか。

(写真2)【利他と多様性/ストレスの適正化/使いやすさの追求】「がやがやしているのが苦手など好みに合わせて選択できるので人気。多様性に配慮し、ストレス軽減にもつながっています」(森田)。 「静かさの好みは人それぞれ。ここは適度に静かな場所。背後の棚も安心感をもたらします。オフィス内の集中できる空間への要望は高まっています」(北村)

北村 26階にある特に眺めの良い一人用の窓際スペースです(写真2)。仕事をするとき、個室で集中したい人もいれば、適度に人を感じながら集中したい人もいます。集中する場所が選べることで「ストレスの適正化」にもなります。多様な従業員に合わせ、グラデーション発想で空間を捉えることは大切です。

森田 確かに、選択肢があることでストレスの適正化はもちろん、従業員の生産性向上にもつながりますね。

場をさらに活かすためにオフィス運用は必須

――働く空間の選択肢と、従業員が交流し合える空間を設けさえすればよいのでしょうか。

【仕事からライフワークへ】「社内共創スペースWiL-BA(ウィルバ)。従業員が自由にイベントを企画するなど多様な使い方が可能。自由な交流や偶発的な出会いが生まれます」(森田)

北村 単に空間をつくるだけでは足りないと思います。オフィスを従業員に使ってもらうには、総務やIT、人事など運営側がどのように使ってもらいたいかを考えることが必要です。

 オフィス変革は大きな投資です。せっかく変えても使われない空間があるともったいない。継続的に検証して使われる空間にしていくのも必要です。

森田 その通りですね。「We Labo」自体、検証の場だと考えています。この空間は人気、ここはあまり使われてないなどの成功も失敗もここで検証し、企業のオフィスづくりに役立てていきたいです。

――最後に、お二人が考えるオフィスとは何でしょうか。

北村  「企業のビジョンを体現する空間」です。オフィスとそこで働く人たちを見れば、どんな企業なのかが伝わってきます。活き活きと働く従業員が増えることこそが、企業価値向上につながると言えるのではないでしょうか。

森田  「従業員に使われてこそ価値がある」。そのためにオフィスの在り方を企業に伝えていくのが当社の使命だと思います。

お話いただいた方
SL&A ジャパン代表取締役社長
北村紀子氏
日本企業勤務を経て、米・サンフランシスコの美大で建築・インテリアを学ぶ。ワークプレイスの可能性を追求し、コーポレートデザインを軸とした設計事務所SL&Aジャパン代表。

オカムラ 働き方コンサルティング事業部 ワークデザイン研究所 所長
森田 舞氏
岡村製作所(現オカムラ)入社後、製品企画担当を経て、働き方・働く場に関する研究・効果検証に携わる。共著に『オフィスはもっと楽しくなる』(プレジデント社)。2022年より現職。博士(工学)、1級建築士。

●問い合わせ先
株式会社オカムラ
お客様相談室 TEL:0120-81-9060
URL:https://www.okamura.co.jp/office/
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