コロナ禍以降、さまざまなデジタルツールの導入によりリモートワークが進み、「働き方」に対する認識が大きく変わった。その一方、「優秀な社員がすぐに辞めてしまう」など、以前からの企業側の課題はますます深刻になっているのが実情だ。そんな中、海外企業を中心にHR(人的資源)のトレンドワードになっているのが「従業員エクスペリエンス(EX)」だ。なぜ今、EXが重要なのか。PwCコンサルティングで「EXコンサルティング」を提供しているテクノロジー&デジタルコンサルティング事業部の荒井慎吾上席執行役員と、同事業部の大野元嗣ディレクターに聞いた。
優秀な人材の獲得・定着にはEX向上が不可欠
「残ってもらいたい社員に限って、すぐに辞めてしまう」――。こうした企業の人材に対する悩みや課題は以前からあるが、その対策の重要性は高まる一方だ。
その理由について、PwCコンサルティングのテクノロジー&デジタルコンサルティング事業部を統括する荒井慎吾上席執行役員は「コロナ禍以降、リモートワークと出社を織り交ぜたハイブリッドワークが進み、働く人の意識が変化し、価値観が多様化してきています。中でも、ミレニアル世代(1980年代に生まれた世代)やZ世代(90年代後半から2012年ごろに生まれた世代)は、企業に対して金銭的な報酬だけでなく、仕事のやりがいや成長できる機会、働き方の柔軟さなどを求めていて、自分に合わないと思ったらすぐに転職するケースが増えています」と背景を語る。
加えて、同事業部の大野元嗣ディレクターは「職場でチャットアプリや生成AIの使用を禁じられたことなどをきっかけに転職してしまう若い社員も珍しくありません。IT系企業であっても、伝統的な大手の日本企業の中には、上司にチャットで話し掛けることを『失礼な行為』として禁じるところもあります。その際、最先端の技術やツールが使えない環境にストレスを感じ、『この企業にいたら、自分は成長できない』と思ってしまうのです」と説明する。
そこで、最近、急速に注目を集めているのが「従業員エクスペリエンス(Employee Experience:EX)」だ。EXとは、簡単にいえば「従業員(社員)が企業・組織の中で体験する価値」のこと。その体験の価値は、リクルーティングや組織カルチャー、キャリア開発、ネットワーキング、働き方など多岐にわたる。このため、EXの向上は従業員の満足度やモチベーションを引き上げ、「人材の流出」を防止するだけでなく、個人のパフォーマンスを高め、生産性や創造性を向上させ、職場でのチームワークを高めることにつながる。結果的には、持続的な企業・組織の成長を促すものとされているのだ。
今後の人口減少が見込まれる中、EXの向上は「優秀な人材確保」という視点において、ますます重要になるのは間違いない。
次ページからは、EX向上を目指す上で企業が意識すべき三つのポイントを明らかにするとともに、PwCコンサルティングが実際に提供したEXコンサルティングサービスの導入事例を詳しく紹介する。