日本政府による国内半導体産業への支援が加速している。半導体の安定供給の確保という経済安全保障上の目的と共に、AIの急速な進化や、ポスト5Gなどを見据えた次世代半導体の開発で世界をリードするのが大きな狙いである。その支援先の一つとして、政府が多額の助成金を供与したのが、半導体メモリ分野で世界をリードするマイクロンだ。AIのさらなる進化を予見し、より高速・大容量の半導体メモリ開発を日本で進める戦略の意図について、マイクロンメモリ ジャパンのジョシュア・リー代表取締役に聞いた。
AIのさらなる進化を見据えて成長戦略を描く
この1、2年で瞬く間に普及した生成AIは、ビジネスの進め方を一変させた。業務効率や生産性を飛躍的に向上させ、顧客や社会への提供価値まで高めてくれる生成AIの活用は、もはや後戻りできないトレンドとなりつつある。
生成AIに限らず、いまの社会やビジネスは、AI抜きには機能しない状況になっている。そんな「AI時代」を支える重要なテクノロジーであるにもかかわらず、案外注目されていないのが、DRAMやNANDなどの半導体メモリだ。
そもそもAIによる学習や分析は、対象となる「データ」が存在しなければ成立しない。膨大なデータを次から次へと記憶し、処理していくには高性能な半導体メモリが必要だ。どんなにAIが優れていても、メモリのデータアクセス速度や容量が不十分だと、それが“ボトルネック”となって分析や回答などのアウトプットが滞ってしまう。
半導体と聞くと、演算処理を行うCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)などのロジック半導体を思い浮かべる人が多いかもしれないが、データのアクセスや保存を行う半導体メモリも非常に重要なのである。
その半導体メモリの分野で世界をリードする企業の一つがマイクロンテクノロジー(以下、マイクロン)だ。
同社は現在、世界最高速・最大容量のHBM(広帯域メモリ)である「1β(ワンベータ)DRAM」を供給している。その製造と世界市場への供給において、重要な役割を担っているのがマイクロンメモリ ジャパンの広島工場(東広島市)である。
「広島工場には、マイクロンのあらゆる最先端テクノロジーが集約されています。半導体メモリの分野で日本が世界をリードしていく上でも、重要な役割を担ってくれるものと確信しています」
そう語るのは、マイクロンのバイスプレジデントで、マイクロンメモリ ジャパン代表取締役のジョシュア・リー氏だ。
リー代表取締役は、マイクロンが広島工場で同社初となる「1β」の量産を成功させたことについて、「優秀な技術者たちの存在や、装置メーカーから材料メーカーに至るまで半導体製造のエコシステムが整っていることなど、日本ならではの強みが支えになりました。その強みを生かしながら、日本は今後もマイクロンの成長戦略の一翼を担っていくことでしょう」と語る。
マイクロンの成長戦略とは、AIの進化とともに、より高速・大容量な半導体メモリへの需要が高まることに応えながら、グローバル市場における存在感を高めていくことだ。
「5Gやポスト5Gといった高速・大容量の通信の普及とともに、データの生成量が爆発的に増えれば、それをAIに処理させるための半導体メモリも、より高速・大容量のものが求められるようになります。『1β』にとどまることなく、さらなる高みを目指していきたい」とリー代表取締役。
その取り組みは、すでに始まっている。
次ページからは、なぜ日本政府は外国企業であるマイクロンに多額の助成金を供与しているのか、そしてマイクロンが評価する日本の半導体産業の強みとは何なのかについて、詳しく解説する。