【パネルディスカッション】まずは経営者自身が笑顔になること

チーム力と社員のやりがいを引き出し、組織の力を極大化する「健康経営大会議」

 続いて行われたパネルディスカッションには、脳科学を専門とする東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授、「健康経営」企業の代表として、精密金属加工メーカー、ダイヤ精機の諏訪貴子代表取締役社長、アクサ生命の村松副部長の3人のパネリストが登壇。「従業員のウェルビーイングが企業価値を高めていく」をテーマにトークを繰り広げた。

 モデレーターを務めた東京都市大学教育開発機構の瀬戸久美子特任教授は「ウェルビーイングにはさまざまな定義がありますが、このディスカッションでは、仕事とプライベートにおける満足度と定義します」と宣言。

 その上で、諏訪社長に「ダイヤ精機では、どのように社員のウェルビーイングを高めていますか?」と問い掛けた。

 諏訪社長が第一に挙げたのは、「笑顔で働ける環境づくり」だ。

「父から会社を継いで社長になって以来、数多くの若手社員を採用してきました。世代間ギャップもあるので、笑いのつぼが私と同じかどうかを判断して採用しています。結果として、全ての社員が同じつぼにはまり、笑いの絶えない風土が醸成されました」と語った。

 また、「社員には、常に感謝の言葉を伝えるように心掛けています」とも明かした。

チーム力と社員のやりがいを引き出し、組織の力を極大化する「健康経営大会議」ダイヤ精機 代表取締役社長 諏訪貴子
1971年東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業後、ユニシアジェックス(現・日立Astemo)でエンジニアとして働く。32歳(2004年)で父の逝去に伴いダイヤ精機社長に就任。新しい社風を構築し、育児と経営を両立させる女性経営者として活躍中。日経BP社Woman of year 2013 大賞を受賞。「news zero」(日本テレビ)や「日曜討論」(NHK)等のメディアに多数出演し、現在、新しい資本主義実現会議の構成員として中小企業の現状と課題を伝えている。

 これに対し、池谷教授は「笑顔になると、知らず知らずのうちに前向きな気持ちが生まれてくるものです。笑いには免疫力を高める効果があるといわれますが、病気になりにくくなるのは科学的にも実証されているので、その意味でも健康にいいのではないでしょうか」と解説。

 さらに、感謝の気持ちを伝えることについて、池谷教授は「褒めるよりも、感謝した方が相手の気持ちが上がりやすいという研究結果もあります。褒めるのは“上から”の立場ですが、感謝し合うのは対等の関係なので、より仲間意識を形成しやすいのです」と説明した。

チーム力と社員のやりがいを引き出し、組織の力を極大化する「健康経営大会議」東京大学大学院薬学系研究科 教授 池谷裕二
1998年に東京大学にて薬学博士号を取得。米コロンビア大学への留学を挟み、2014年より東京大学薬学部教授。神経生理学を専門とし、脳の健康や老化について探究する。18年よりERATO脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植により新たな知能の開拓を目指す。日本学術振興会賞や日本学士院学術奨励賞など受賞多数。『海馬』『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』などベストセラーも多く、累計部数は400万部を超える。「情報7daysニュースキャスター」(TBSテレビ)にコメンテーターとして出演中。

 社員同士が感謝し合うことで「健康経営」を成功させている企業の事例を挙げたのが、村松副部長である。

「アクサ生命が『健康経営』支援を行っているパン製造・販売の八天堂(広島県三原市)は、社員同士で感謝の気持ちを伝え合う『ありがとうカード』を、スマートフォンアプリを使ってやりとりしています。チームワークの強化が図られ、事業の拡大や売り上げアップを実現されています」と語った。

 では、ウェルビーイングは、企業価値の向上にどれだけ結び付くものなのか。

 諏訪社長は、「父の時代は、社長のトップダウンで現場を動かしていたのですが、私はボトムアップに徹して、社員それぞれのやり方に任せました。思う存分、伸び伸びと働けるようになった結果、むしろ生産性や利益率は今の方が高くなっています」と語った。

 社員が健康で活躍してもらうには、「働き過ぎない」ように仕向けることも大事だ。

 諏訪社長は「集中力はせいぜい1時間しか続きません。しっかり働いたら、同じくらいしっかり休むことも大切。社員には仕事と休みのめりはりをつけるように勧めています」と語った。

 これを受けて、池谷教授は「休みを取って趣味や副業の時間に充てれば、ストレスが解消されるだけでなく、視野や価値観が広がります」とアドバイス。

 村松副部長も「休みの日は仕事から離れ、趣味などの経験を通じて心身の疲れをリセットすることを、リカバリー経験といいます。仕事以外のことに夢中になることも大切な時間です」と語った。有給休暇の消化ルールや副業の許可など、制度の見直しも検討したいところだ。

 モデレーターの瀬戸特任教授は、最後に「ウェルビーイングを高めるには、何から始めたらいいのか?」とパネリストたちに問い掛けた。

チーム力と社員のやりがいを引き出し、組織の力を極大化する「健康経営大会議」東京都市大学教育開発機構 特任教授 瀬戸久美子
編集者、東京都市大学特任教授。早稲田大学在籍中に交換留学先の米国でジャーナリズムを学んだ後、日経BPで「日経ビジネス」記者や「日経WOMAN」「日経TRENDY」副編集長などを歴任。現在は経営者や社会起業家を中心に取材・執筆活動を行うほか、高等教育機関にて探究学習プログラムの開発などを手掛ける。2023年にはメディアリーダーとして「世界経済フォーラム年次総会2023」(ダボス会議)に参加し、「Japan Night Davos」(ジャパンナイト)のMCも務めた。修士(国際関係学)。

 諏訪社長は、「まずは経営者自身が笑顔になること」。池谷教授は、「楽しいことを想像すると、脳が反応して自然にモチベーションが高まる」。村松副部長は、「将来に夢や目標があり、前向きな人生観を持つこと。健康経営の一環として、社員の皆様が夢や目標を見つめ直す機会を提供しましょう」と、それぞれアドバイスした。