企業で働くことの価値を提案できなければ、離職率が高まり、企業の成長が止まってしまう

 世界的な潮流となっている「人的資本経営」とは、人(社員)を経営に必要な資本として考えること、すなわち「投資する対象」と捉えることである。言い換えると、企業の発展のために不可欠である社員の個性や多様性を活用するための投資だ。JTBでは、社員への投資とは、すなわち「エクスペリエンス=体験・経験」の積み上げであると考えている。

「私たちはEVPを“社員が共感できる、その企業で働く価値の提案”と定義しています。企業の成長のためには、社員個人と組織が一体となって、双方の成長に貢献し合える関係をつくることが大切になります。これを『従業員エンゲージメント』といいますが、その従業員エンゲージメントの向上に有用なのが、私たちが取り組んでいるEVPなのです」(安達原グループリーダー)

JTB ビジネスソリューション事業本部 事業推進チーム 安達原祥子グループリーダー

 従業員エンゲージメントが高まれば、自律型の人材が増え、生産性が向上し、イノベーションの創出力が高まる。企業のビジョンや考えに共感する人が集まれば、採用活動は効果的になり、社員の定着率も高まる。その結果、企業のブランドや価値が向上する。人材の流動化が激しくなっている今、企業は社員に対して、その企業で働くことの価値を提案することが重要だ。できなければ離職率が高まり、企業の成長は止まってしまうだろう。 

 とはいえ、人的資本経営において、経営側がいろいろと働き掛けても、社員がその企業で働く価値を実感し、自発的に行動する意思や機運が生まれなければ何も起きない。

 JTBは今、独自のソリューションを通して企業で働く価値を共感させ、従業員エンゲージメントを向上させる事業で実績を出している。なぜそれが可能なのか。そもそも、JTBがなぜ人的資本経営を支援する事業を展開しているのだろう。

「私たちは長らく企業の報奨旅行(インセンティブツアー)をサポートしてきました。その中で、毎年参加する顔触れ(社員)が変わらないという事実に気付いたのです。原因は何なのか。社員のモチベーションを上げるためにはどうすればいいのか。それを追求するために、1993年、ジェイティービーモチベーションズ(現JTBコミュニケーションデザイン)を設立し、まだモチベーションという言葉自体があまり普及していなかった頃でしたが、企業や組織のモチベーションにフォーカスしたコンサルティングを実施してきました」(安達原グループリーダー)

 現在は、「モチベーションメソッド」に加え、「ホスピタリティメソッド」という二つのオリジナルメソッドをベースに、さまざまなテーマに沿って人材・組織開発のためのソリューション提供を開始している。

 2019年には、モチベーションコンサルティングの知見やノウハウを生かし、課題の把握から組織開発を支援するクラウドサービス「WILL CANVAS」をリリースした。モチベーションや行動に影響を与える要素を「5つのカテゴリ」と「28のサブカテゴリ」に細分化し、組織の状態を網羅的に把握することができる。併せてモチベーションの状態を可視化し、組織開発や人材開発をサポートする、効果検証までを含むワンストップのオリジナルサーベイである。

「WILL CANVAS」の画面イメージ。組織の状態を可視化し、課題解決への糸口を発見することで組織力を向上させ、パフォーマンスの向上へとつなげることができる
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「『WILL CANVAS』の特長は、企業さまそれぞれが目指すゴールに対してサーベイができるよう、柔軟な設計がされていることです。一言で言えば、カスタマイズ性が高い。組織の“ありたい姿”に応じて設問設定を行い、その目標に対して今どういう状態なのかを把握することができる。また多面的な分析や、課題の優先順位が分かる高い視認性があり、サーベイ実施後の具体的な行動施策のヒントを得られる機能があるのも特長です」(安達原グループリーダー)

 だがJTBの強みは、サーベイ分析や行動施策のヒントにとどまらないところにある。旅行業で培われた豊富な経験と知見を基に、組織を活性化させる効果の高いプログラムを用意しているのだ。その中でも特に高い評価を得ているのが、冒頭で紹介した、世界的ベストセラーのビジネス書『7つの習慣』を体感して学ぶことができる野外体験型研修プログラムである。