ウェブ広告に代わるリテールメディアの存在感が増す
「店舗に近く、ホットリードを獲得できるという点で、リテールメディアには大きなポテンシャルがあります。ただ、これまでは大きく活用されてきませんでした」と望田氏は語る。
大きな要因として、消費者の購買ジャーニーが把握しづらかったという点が挙げられる。デジタルサイネージになったとしても、あくまでも商品やサービスをプロモーションする「看板」の域を出ていなかったのだ。このため従来、広告主が消費者とインタラクティブなコミュニケーションを図るための手法はウェブ広告が主流だった。インターネット広告会社の台頭もそこに理由がある。だが、その流れも変わりつつある。
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大きなきっかけになったのはクッキー規制の問題だ。GAFAと呼ばれる米国の大手プラットフォーマーは、消費者のウェブをまたいだ閲覧履歴を記録する「サードパーティー・クッキー」を順次廃止する計画だ。実施されるとウェブ広告の効果が低減すると予想されており、広告主は代替手段の確保に向けた対応を急いでいる。
だが、それに対して望田氏は、「もともとウェブ広告がどれだけの個人の属性情報を取得できていたかは疑問です。年齢や性別ですらはっきりと取れていなかったかもしれません。それに対して、AIカメラを搭載したデジタルサイネージであれば、消費者の年齢や性別まで瞬時に識別できます。また、見た時間とひも付けることで、どのコンテンツに興味を持っているかも分かります」。むろん、その結果、消費者が店舗に足を運んだか、商品を購入したかどうかまで分かるわけだ。
自宅以外の屋外で消費者が接触するメディアをOOH(Out of Home)と呼ぶ。従来、OOHは広告測定が難しいとされていたが、LMIグループの「AdCoinz」のような新たな機能を持つリテールメディアなら、ウェブ広告とは異なる付加価値の高いマーケティング活動が可能になる。
店舗を知り尽くしたLMIグループの強み
広告主とリテールと消費者を効果的に結び付ける手法として、リテールメディアが注目されつつある。デジタルサイネージなどを提供する企業も増えているが、そこでもLMIグループの強みが発揮されているという。
望田氏は次のように説明する。「当社はもともと、社長の永井(俊輔)の実家の看板屋から始まりました。彼は私の中学校から大学までの同窓生で、私も一緒に共同創業者として参加しました」。
それまで永井氏は大手ベンチャーキャピタルに、望田氏は大手PE(プライベートエクイティー)ファンド、外資系大手コンサルティング会社に勤務していた。両氏が経営に参加することで事業は大幅に転換。看板・サインだけでなく、店舗の内装などにも事業を拡大するとともに、CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して5年間で売り上げを3倍に伸ばした。
同社の大きな特長は、レガシーとされていたものにデジタルマーケティングの手法を導入したことだ。社名のLMIは「レガシーマーケットイノベーション(LEGACY MARKET INNOVATION)」を意味しているという。ショーウィンドウやディスプレイの効果検証を行う解析ツールなども開発し、小売店などに好評だ。
「さらに私たちは、AIツールや解析ツールを開発するベンチャーではありません。大きな違いは実際にサインや内装、店内の什器(じゅうき)などの製造・設置まで手掛けていることです」と望田氏は話す。
興味深い取り組みもある。「ある大手スポーツシューズメーカーの旗艦店では、天井に複数のAIカメラを設置し、消費者の動線、各売り場の滞在時間、離脱率・購入率などを分析しました。その上で、データを分析しながら什器のレイアウトを変更したことによって、店内の回遊時間が増しただけでなく、売り上げも大幅に伸びました」。LMIグループは、PDCAサイクルをリアル空間でも一気通貫で展開できるノウハウを持っているわけだ。