約7000種類の莫大なタンパク質を測定
フォーネスライフが提供するヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス」の中核となるのが、血中タンパク質測定技術「SomaScan®(ソマスキャン)」だ。
これは、NECグループが出資する提携先の米国バイオベンチャー、SomaLogic(ソマロジック)社(24年1月にスタンダードバイオツールズと経営統合)が提供する技術。特定のタンパク質と特異的に結合する人工核酸分子(アプタマー)を利用することで、微量の血液から約7000種類の莫大な数のタンパク質を測定できるのが特徴だ。世界中のバイオバンクに何十年にもわたって蓄積されている膨大な血液サンプルから分与された数千、数万の血液中の約7000種類のタンパク質を測定し、そのビッグデータと病気の発症履歴をAIや統計的な処理により解析することで、特定の病気に関係するタンパク質を見つけ出し、「数年後の病気のリスク」を予測する。もともとは製薬会社や研究機関などの創薬研究や基礎研究に利用していた技術であり、NECグループでは、これまで研究機関や医療機関、製薬・バイオ関連企業などを中心に、B2BでSomaScan®によるタンパク質測定サービスを展開してきた。
タンパク質とアプタマーが結合している様子(CGによるイメージ)
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血液検査による病気予測といえば「遺伝子検査」もあるが、遺伝子は一生変化しないので、体質の傾向を推定することはできても、“現在”の健康状態を知ることはできない。一方、人間の体を構成する重要な要素である「タンパク質」は、生活習慣によって体内での構成割合が変化するため、測定することで“現在”の状態を把握するのに適している。
「血液中を浮遊するタンパク質として今、明らかになっているものは1万種類以上ありますが、この先2万種類くらいまでが明らかになるのではないかと予測されています。現在、約7000種類のタンパク質の測定が可能ですが、『こういうタンパク質の構成の人は、5年後に認知症を発症している』といったデータをたくさん集めて、ビッグデータとして解析することで、リスク予測をしていくわけです」
事業化に当たって直面した「二つの課題」
フォーネスライフがフォーネスビジュアスを事業化するに当たり、一番の課題となったのは「この技術による『病気のリスク』の予測が日本人にも適用可能かどうか、ということでした」と和賀CTOは説明する。
加えて、医療現場の医師たちの信頼をいかに得るかというのも大きな課題だったという。
なぜなら、健康リスクを判定する民間企業の検査サービスは多数あり、まさに玉石混交。いたずらにリスクだけを示して患者を不安にさせるだけのケースも少なくない。こうした検査サービスには、各疾患の専門医らは厳しい目を向けているのが実情だ。
まず、日本人への適用の是非については、東北大学や京都大学、名古屋大学、千葉県がんセンター、国立長寿医療研究センターなどとの共同研究や専門医らの評価を受けて、問題ないことを確認した。
そして、専門医らに対しては、和賀CTO自らが積極的に同サービスの内容や意義について解説したという。
「まず、病気をつくっているのは生活習慣だから、生活習慣を正すことで病気をなくすサービスだという文脈でお話しすることを心掛けました。コツコツとサイエンスをお伝えすることで、理解を広げていきました」
現在、フォーネスビジュアスで予測する疾患リスクは、(1)20年以内/5年以内の認知症〈5年以内のリスクは、65歳未満の人は対象外〉、(2)4年以内の心筋梗塞・脳卒中、(3)5年以内の肺がん、(4)4年以内の慢性腎不全、の4種類。
フォーネスビジュアスを利用する場合、まず、フォーネスライフのウェブサイトで購入し、次に、提携先の医療機関で血液を採取する。そして、具体的な病気のリスクを予測した検査結果(※6)が出た後に、コンシェルジュから健康状態やライフスタイルに合わせた生活改善方法の提案を受けることができる(受診後2回は無料)という仕組みだ。ちなみに、人間ドックや健康診断などとは異なり、前日からの食事制限などはない。