TOTOが3年で窮めた「トイレ製造DX」の奥義、匠の技とデジタル技術の“異色融合”で挑む企業変革の本気TOTOの「トイレ製造DX」の若手キーパーソンである、TOTOサニテクノ技術本部技術部DI推進課の角樋昌恵氏。座っているのは、TOTOのトイレの中で一番好きだという「ネオレストNX」

トイレ業界のリーディングカンパニーとして知られるTOTOが、衛生陶器の「製造DX(デジタルトランスフォーメーション)」を急ピッチで進めている。便器などの衛生陶器は製造の難易度が高く、良品を均質に作るためには生産現場の経験と勘が不可欠だ。一般的に、匠の技とデジタル技術は“相性”が悪いとされるが、TOTOはわずか3年で融合に成功した。TOTOがトイレの生産現場で起こす、デジタルイノベーションの奥義に迫る。

ウェルネストイレの開発との並走で挑む
TOTO革新部隊の“本丸”改革

 福岡県の北九州空港からエアポートバスに乗り、「三萩野」のバス停(北九州市小倉)で降りて西へ徒歩10分。TOTO本社とその代名詞である衛生陶器(便器など)のマザー工場は、住空間に当たり前のように設置されたトイレがごとく、小倉の街に溶け込むようにして立っていた。

 民家や小学校、ゴルフの練習場などがほんのすぐそばにあるのだ。しかしこのTOTO本社・小倉第一工場は、どこかつつましやかなたたずまいとは裏腹に、トイレに関する秘伝の技術が結集した水回り業界の要所だ。

 その敷地内の一角に2021年、ある革新部隊が発足した。衛陶事業推進室――。TOTO本社の衛陶生産本部内に、そう銘打って立ち上げられた組織である。

 ミッションは、TOTOの祖業にして基幹事業であるトイレ製造におけるデジタルイノベーションの創出だ。ミッション遂行のため、衛陶事業推進室の一部担当者は、衛生陶器の生産部門を担うグループ会社、TOTOサニテクノに早々に出向。生産性を高めるべく、グループ内で培ってきたデジタル技術の徹底的な“現場実装”に動く。

 TOTOは全社的には、19年にデジタルイノベーション推進本部を設置し、ITを活用した商品・技術開発に本腰を入れる。20年には、スマートフォンの専用アプリから浴槽の掃除やお湯張りなどの入浴準備を自動で行えるシステムを発売。21年には世界最大規模の技術見本市「CES」にて、ウェルネストイレの開発を初表明した。

 普段通り使用するだけで健康状態のモニタリングや分析ができるウェルネストイレが実現すれば、トイレには健康診断・未病対策ツールという異次元の道が開かれる。TOTOの“本丸”である衛生陶器の「製造DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、そうした新価値の提供と並走させて取り組む、TOTOの本気の企業変革だ。

 とはいえ、ハードルは高い。実は衛生陶器は“量産”がとてつもなく難しい工業製品だ。駅などのトイレの菌を数百種類コレクションし、便器の「汚れにくさ」を追究するような、超技術志向のTOTOですら「生き物」だと表現するほど。製造工程には多くの手作業も介在する。

 次ページ以降では、そうした奥深きトイレの世界をつまびらかにしながら、TOTOがトイレの生産現場で起こすデジタルイノベーションの中身と奥義を、革新部隊の若手キーパーソンに明かしてもらう。匠の技とデジタル技術の融合を巡る、TOTOの企業秘密について探っていこう。