トイレ市場が寡占化されている納得の理由
TOTOが語る「衛生陶器は生き物」の真意とは

 トイレ――。それは言わずと知れた“生活必需品”だ。水洗トイレの国内普及率(水洗化率)は9割程度という高水準が続いたことなどから、総務省の「住宅・土地統計調査」でも08年を最後に調査項目から外されたくらいだ。

 トイレは日本人にとってそれほどまでに身近な存在であるわけだが、製造を手掛ける国内メーカーの数は少ない。大きな市場シェアを持つメーカーとなると、TOTOをはじめとする数社にとどまる。

 トイレ市場が寡占化されている大きな理由の一つは、前述したように「作るのが難しいから」だ。特に困難を極めるのが衛生陶器の製造である。

 その名の通り陶器製の衛生陶器は、ざっくり説明すると、陶石や粘土などをこねた泥(泥しょう)を型に流し込んで成形し、乾燥させて釉薬(ゆうやく)を吹き付け、窯で焼いて作る。これの何がそんなに難しいのかといえば、均質性を担保することだという。

 原料が気温や湿度などに左右される天然素材である上、乾燥や焼成を経ると成形直後に比べて13%も縮んでしまう。しかも縮み方は重力の影響などによって一様ではないため、全体を均等に13%大きくしても思い通りの形にはならない。一定以上の品質を保ちつつ、ばらつきのない製品を世に送り出すには、生産現場を率いる熟練技術者の経験と勘が不可欠だ。

 ではTOTOは、その衛生陶器の複雑な生産現場で、どんなデジタルイノベーションを、どのように起こしているのか。くだんの衛陶事業推進室に配属された革新部隊の一員であり、現在TOTOサニテクノ技術部にてデジタル活用を推進する角樋(すみひ)昌恵氏を直撃した。

デジタル技術の“使い方”の一工夫で変革が加速
「トイレ大好き集団」が創るものづくり新時代

TOTOサニテクノ技術本部技術部DI推進課
角樋昌恵氏インタビュー

――トイレ製造のデジタルイノベーションとは、具体的にはどんな取り組みを指すのですか。

 私は主に、衛生陶器の成形工程における「泥の流れの見える化」を進めています。TOTOでは数年前、データサイエンティストたちによって、衛生陶器を成形する際に泥が型にどう流れ込んでいるかをシミュレートするツールが開発されました。私はこれをより“実用的”なツールにするべく、現場目線を加味した解析の高度化に取り組んでいます。

TOTOが3年で窮めた「トイレ製造DX」の奥義、匠の技とデジタル技術の“異色融合”で挑む企業変革の本気2017年入社。大学では生命医科学部に在籍。機械系の勉強に加え、医学や人間工学についても学んだ。(1)ユニバーサルデザインに注力していること、(2)最先端技術を追求し続けていること、(3)あらゆる人の一生涯にわたり、価値を提供できるトイレを手掛けていること。これら3点が入社の大きな決め手となった。

 生産現場は、ばらつきが出やすい衛生陶器の特性と向き合いながら、良品を均質に生み出そうとさまざまな努力を重ねています。型に泥を送る配管の口径一つ取っても、何度も調整します。型の中における泥の流量や泥同士の衝突を適切にコントロールするためです。

――泥を型いっぱいに流し込みさえすればいい、というわけではないのですね。

 例えば泥の衝突の衝撃が大きいと、焼いた後にその部分が盛り上がってしまうことがあるんですよ。シミュレーションツールによって実現象に近い泥の流れが再現可能になれば、生産現場が行う品質不良削減のための試行錯誤の時間を短縮することができます。仮説を検証しやすくなるからです。従来、型などの欠点対策は、成形や焼成の結果を見てから講じるしかありませんでした。

 堅苦しい仕事のように聞こえるかもしれませんが、全然そんなことはなくて! 目指しているのは生産現場の困り事の解消です。私は、「デジタル技術を使ったらこんなふうにものづくりを良くしていけるんじゃないか」と思いを巡らすのだって、DXだと思っています。

 現場に出て知恵と想像力を働かせ、デジタル技術をフックにした品質不良の削減策を提案することで、トイレ製造における生産性の向上に貢献したいと考えています。

――DXには、生産現場における「経験と勘の精度」を高める役割もあるということですね。