村上 お客さまの密度が薄まる中、さまざまなサービスが生産性を維持し、働く人の給与を守るためには、限られた供給リソースを的確に需要に当てる、すなわち何らかの形で「リアルタイムでのオンデマンド」化を進めるしかありません。

 例えばバス。利用密度が減っていく中で、時刻表どおりに運行する定期便をいくら工夫しても、算術的に必ず乗車密度は下がり、バスの運行効率は悪化しかしません。限られた車と限られたドライバーを効率よく活用するには、需要側のデータをみんなでシェアし、供給側がそれに合わせて運行管理を行う仕組みが必須となってきます。

 しかしそこで、定期運行便の代わりに配車アプリを使おうと思っても、小規模な地方の事業者が配車アプリに単独で投資をするのは困難です。需要側の動向を把握するためのシステム作りに、地域のモビリティサービスを支える皆さんが共同で取り組むことが必要となります。事業者と地域による「共助」によってデータ連携基盤を構築し、それを各社のビジネス、「自助」の世界につなげていく。自助と共助の好循環づくりが必要です。

片倉 データ活用によって、人口減少という社会課題をいかに打開していくか、ということだと思いますが、村上さんは「需要が供給に合わせる経済から、供給が需要に合わせる経済へ」とよくおっしゃっていますね。

村上 需要も供給も増えているときは、市場メカニズムの現場に任せるだけでもうまく需給のマッチングが進みます。しかし、人口減少に伴い需要も供給も共に減る時代になると、ただ市場メカニズムに任せるだけでは、両者はなかなかうまくマッチしないんです。

和田 それは私も実感します。需要と供給の双方が高速で処理されて、今この瞬間に必要なものが明らかになるようなスピード感と同時に精度の高さも問われる時代であり、まさに転換点を迎えています。

人口減少に立ち向かうデータ戦略 〜共助のモデルが創り出す新たな成長のカタチ〜デジタル庁
国民向けグループ長 統括官 村上敬亮

「自助」と「公助」を合わせた「共助」というコンセプト

片倉 監査法人として、あるいはアドバイザリーサービスの観点から企業のデータ活用を見ていると、もはや自社のデータだけを使うのでは限界があり、国や他の企業との連携を積極的に模索すべきだと思うのですが、国の立場からはどうお考えですか。

村上 もう待ったなしです。これを後押しするのがAI(人工知能)です。化学メーカーの大手3社がAIを活用した大規模計算処理を行うことを前提に、3社共同で大型電子計算機センターを造ることを発表しました。もはや1社だけでは世界に勝てない。生き残りを懸けて連携するわけです。

 AIによる学習合戦はグローバルで熾烈(しれつ)を極めています。「このデータは私のもの」などと言って囲い込んでいたら、どの企業も国も滅びてしまうくらいの勢いです。

片倉 データの活用を考えるときに、私たちは三つのポイントがあると思っています。一つ目はオープン化。ITシステムやデータを組織の外部に開放するクラウドサービスなどを利用すること。二つ目は共有化。APIによる外部連携を通じた外部組織とのデータ相互利用や、データレイクを利用した外部のビッグデータを積極的に活用すること。そして三つ目は自動化。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどを活用し、業務処理を自動化することです(詳しくは記事末リンク「Digital Trustサービスページ」参照)。

 EY新日本有限責任監査法人(以下、EY)はオービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)さまと連携し、会計システムのデータ自動連携のソリューションを開発しましたが、これは先に挙げたポイントの二つ目の共有化と三つ目の自動化を実現する民間企業同士の連携事例といえます。

人口減少に立ち向かうデータ戦略 〜共助のモデルが創り出す新たな成長のカタチ〜EY新日本有限責任監査法人
理事長 片倉正美

――今回のOBCとEYの連携は、これまで手作業で行っていた会計データやその証拠となる契約書・請求書などの資料の授受を、システム間で行うことにより、「業務の効率化」と「取引と会計のデータの信頼性と安全性の担保」を同時に実現した事例となりました。これを踏まえ、デジタル社会の実現に向けた課題、不可欠な技術や制度とは何かをお聞かせください。

和田 まずはデータ連携基盤が社会の根幹としてあり、それを支える技術がクラウドです。クラウドにデータとソフトウエアを置いて、誰もがアクセスできるようにする。大事なことはセキュリティーで、安心・安全が担保された基盤である必要があります。

 セキュリティー以外にも、三つの要素が必要になってくると思います。一つ目は、つながる、広がる世界。二つ目が、いつでも、どこでも使える世界。そして三つ目が、政府、関係省庁、税務当局等へ利用企業がデータを活用して電子申告ができ、監査法人、税務会計事務所、金融機関などには、契約利用企業の許可の下で発行されるライセンスにより、安全にデータにアクセスができることです。

 これらの要件を備えたデータ連携基盤が構築できれば、生産性は一気に上がり、さらにAIが加わることで飛躍的な向上も期待されます。後は経営者がそれをどう活用するか、です。

――片倉理事長はこの連携についていかがお考えですか。

片倉 「自助と公助を合わせて、共助」と村上さんがよくおっしゃるように、私たちも「共創(共に新たな価値を創る)」をコンセプトに掲げています。

 労働集約型の監査業務を効率化し、監査の品質そのものを上げていくために、データやテクノロジーなどデジタルを活用して監査を革新していくことが必須と考えています。クライアントのDX戦略と共に進めることで監査革新の効果は高まるため、クラウド会計とデータの自動連携は必須と考えていました。前例がないことではありましたが、業界に先んじて今回OBCさまと連携を進めました。お声掛けしてプロジェクトにご賛同いただけたこと、本当に感謝しております。

和田 OBCのビジネスはパートナーシップを中心とした構造になっています。つまり、お互いに選択と集中をして、役割分担し、協力し合う。それがOBCのコンセプトであり、ビジネスの原点ですから、EYさまとの連携は至って自然なことでした。

片倉 今回ご一緒させていただくに当たって、その点が私どものカルチャー的にも合致したところだと思います。その都度ディスカッションしながら前に進めることができたと担当者からも聞いています。OBCさまとの「共創」の次のステップとして、今後はさらに広く展開していくための仕組み作りを進めていく計画です。

 このように個社間で連携の仕組みを考えて、都度、課題解決を行っていますが、共助の中での共通化やルール作りなど、考え方を統一していくなどの動きはあるのでしょうか。

人口減少に立ち向かうデータ戦略 〜共助のモデルが創り出す新たな成長のカタチ〜オービックビジネスコンサルタント
代表取締役社長 和田成史

村上 これから国際競争力を大きく分けるのは、そこだと思います。共助のインフラは誰がつくるのか。特定の事業者だけがもうかる仕組みになってはいけませんし、かといって収益性がなく事業継続の可能性がないのもいけません。また何より、利用者の信頼が重要です。

 特定プラットフォーマーのような特定の事業者に、データを集める必要はありません。今のデータ連携の技術を使えば、データは各事業者がバラバラに持っていても、必要なときに必要な人たちの間でデータを連携・共有することが可能です。和田社長がおっしゃったクラウドベースの世界も同様の哲学に基づくものだと思いながら話を聞いておりました。

 こうしたデータ連携の仕組みを作る上で、ヒントになるのが“七人の侍”です。誰か特定の人だけが利することのないフェアな仕組みを作るには、できるだけ多くの関係者を引き付ける必要がある一方、目的に対する忠誠心も互いに信頼できる仲間であることも必要です。その最適かつ最小の単位が7人なのです。3人だとフォーカスが狭過ぎるし、偶数だと二つに分かれてしまう。9人以上になるとロイヤルティーの質が下がってしまう。どうやら7人がベスト。黒澤明監督(映画「七人の侍」より)は素晴らしかった(笑)。

片倉 私ども監査法人は、クライアントのDXで新たに構築された仕組みそのものが信頼に足るものなのかどうかを第三者の立場で、「デジタルトラスト」という形で保証していくことによって、仕組みの成り立ちを支えることが可能です。“七人の侍”の一人として、共助のインフラ構築に貢献していきたいと思います。