再エネ調達で立ちはだかる「三つの壁」の正体
その乗り越え方を徹底解説!

 直ちに再エネの確保に動くべきか、それとも様子見しておくのが得策か――。ひょっとすると、再エネの調達計画の策定・実行ほど、企業にとって決断力が試される取り組みはないかもしれない。

 何しろ再エネには、調達するべき時期や量などに関する業界標準的な目安がない。成長戦略やトータルコストに占める電気代の割合、調達すべき電力量などが企業によって皆異なるためだ。

 例えば単純に価格だけを比較するならば、再エネは現状、日本市場では化石燃料(石炭や液化天然ガスなど)や原子力を用いて発電した電力よりも高い。それでも「IT関連事業といった、顧客からの脱炭素化の要請が強い事業に関わる企業などは、競合に先んじてすでにさまざまな手を打って調達に動いています」(鵜飼氏)。

 他方で、グローバルベースで激烈な価格競争の渦中にある自動車関連企業や、電力使用量が圧倒的に大きい鉄鋼・化学関連企業などは、コストアップにつながる再エネの使用には慎重にならざるを得ない。“正解”は、各社が事業特性を勘案した上で独自に導き出すしかないのだ。

 では、企業は具体的に、どのように独自の正解を導いていけばいいのか。端的に言えば、それには下図の三つの壁のクリアが求められる。

「企業にはまず、『社内における共通認識醸成の壁』と『ロードマップ作りの壁』の二つの壁のクリアを目指し、具体的なアクションにつながる戦略の策定を始めましょうとご提案しています」(KPMG FASの六田康裕ディレクター)

 共通認識醸成の壁のクリアとは、経営層、企画部門、調達部門、サステナビリティ関連部門、事業部門などの関係各所において、再エネの調達計画の“前提条件”について合意形成が完了している状態のことだ。このフェーズでは、前提とする「再エネ調達環境のシナリオ」と、「詳細な調達目標」を作り込んでいく。

「再エネ調達環境のシナリオ」の作り込みでは、妥当だと思える脱炭素環境の未来のシナリオを社内で統一していく。どの原子力発電所が稼働するか。送配電網の増強は確実に進みそうか。各国の「カーボンプライシング」政策の影響をどう見るべきか……。こうした再エネ調達に関わるあらゆる情報を集約・分析していくのだ。

 企業内には役割の異なる複数の組織があり、立場の違いからいろいろな意見が渦巻いている。再エネの需給は将来逼迫するはずだと考えている人もいれば、供給が増えて緩和するはずだと考えている人もいる。皆が異なるシナリオを念頭に置いたままでは、具体的な再エネの調達計画について全社で合意形成を図ることは困難だ。

「詳細な調達目標」の作り込みは、脱炭素に関する30年、50年の長期目標をブレークダウンし、1年ごとに達成するべき短期目標を明確化する作業を指す。

 実は温室効果ガス排出量の削減や再エネの調達量などの脱炭素目標について、「30年、50年の長期目標は掲げていても、それに至るまでの年間計画まで打ち出せている企業は非常に少ないのが現状です。どのような時間軸で再エネ調達量を増やしていくのが適切なのか、方針を決め切れていないことが多い」(鵜飼氏)。

 だが、従業員が脱炭素目標の達成を自分事として捉えられるようにするには、毎年どの程度の再エネ確保を目指すのか、“解像度”を上げて把握する必要がある。その際、再エネ調達量を徐々に増やしていくべきか、それとも初期に大きく押さえるべきか判断するための羅針盤となるのが、先のシナリオである。

 次にロードマップ作りの壁のクリアとは、「どの手法で、幾らで再エネを調達するか」が見えている状態のことだ。詳細は後述するが、「再エネ」と一口に言っても、調達手法は複数ある。それにどう優先順位を付けるべきか検討し、調達の“大方針”を定めるところから始めるとよい。

「大方針の定め方は、企業によって全く異なります。極端な例では、『森林を切り開き、自然に大きな負荷をかける形で開発を行った電源は、調達先として避ける』という高い理想を掲げる企業もあれば、『少量の再エネをこまごまと調達して事務方の負担を増やしたくないため、大量に調達できない小規模な電源は避ける』と、現実路線を掲げる企業もあります」(六田氏)

 言うまでもないが、大方針を定めるに当たっては、再エネの調達量だけではなく、調達にかかる費用が受容可能なレベルかどうかチェックすることも重要だ。

 同じ企業でも、部門によって優先事項はそれぞれ違う。サステナビリティ関連部門にとっては脱炭素目標の達成が第一でも、調達部門にとってはコストの維持・削減が第一だ。「『コストが幾らかかるのかが分からないから、関係各所の賛同が得られず、再エネ調達が進まない』と、支援を依頼されるケースも数多くあります」(六田氏)。経営への現実的なインパクトを俯瞰し、全体最適を図らなければ意義あるロードマップは完成しない。

「議論が紛糾する場合は、関係各所が一堂に会する場を設け、われわれの知見を共有しながら、企業にとって最適な落としどころを徹底的に探ります」(鵜飼氏)。脱炭素に対する世界観を、社内でいかに深く共有できるようにするか。KPMG FASは電力業界の仕組みや法制度、それを取り巻く企業の動向といった知見をフル活用し、計画策定のマネジメントに当たる。

 しかし、だ。鵜飼氏によれば、「計画を策定できても、それをなかなか思惑通りに実現できないのが再エネ調達」なのだという。以降では、再エネ調達に立ちはだかる「実行の壁」という、三つ目の壁の乗り越え方について解説していこう。