企業には社会変革を促すような経営・事業変革が求められ、長期的かつ持続的に企業価値の向上を図る必要がある。これを、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)という。しかし、その実践は容易ではない。 社会変革をもたらす真の企業変革実現のため、経営者に求められる「覚悟」とは。伴走型の支援でSXの実践を促すKPMGサステナブルバリューサービス・ジャパンの土屋大輔氏と安東容載氏に、その要諦を聞いた。
SXを語るうえで欠かせない
キーワードとは
編集部(以下青文字):2020年にSXを提唱した経済産業省によると、SXとは「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させ、そのために必要な経営・事業変革を行い、長期的かつ持続的な企業価値向上を図っていくための取組」と定義されています。しかし、その意味はわかるようでわからないこともあるし、何をすればいいのかもはっきりしない企業が多く存在しているのが現実です。SXとは何か、よりわかりやすく説明していただけますか。
土屋大輔
DAISUKE TSUCHIYA大手都市銀行、大手IR・SRコンサルティング会社を経て、2015年よりKPMG/あずさ監査法人にてCFO×ESG領域に関するアドバイザリーに従事。資本生産性指標(ROICなど)の活用や事業ポートフォリオ評価などのアドバイスを行う。
土屋:KPMGでは、「ビジネスモデルの持続可能性を高め、中長期的な企業価値向上を実現するために、ESGを切り口としたサステナビリティの視点を経営判断に採り入れて、企業(ドメイン、ポートフォリオ、戦略、ビジネスモデル、オペレーションなど)の変革を進めること」と定義付けています。
また、サステナビリティの視点が企業経営の仕組みにビルトインされ、恒常的に運営されて、ステークホルダーに認知されている状態を我々は「サステナビリティ経営」と考えています。
日本企業はESGへの対応のためにSXを必須事項としてとらえるべきなのでしょうか。
土屋:もちろんESGは重視しなければなりませんが、持続可能性が求められる時代においては、それは単なる手段にすぎません。現代は不確実性が高く、サプライチェーンの分断や気候変動がこれほど大きなムーブメントになるとは誰も予想していませんでした。経営者はありとあらゆる不確実性に対応しなければなりませんが、そのハードルが極めて高くなっています。それに適切に対応しつつ、変革を進めてみずからのバリューを出していくことが求められています。そうでなければ、持続可能性を保てないのです。
SXを語るうえで欠かせないキーワードがあります。一つは、「社会課題解決」です。そのためには、より本質的に自分たちの企業の存在意義を考え、「なぜ我々はこのビジネスをやっているのか」という原理原則が重要になってきます。
もう一つが「リターン」です。つまり、株主資本コストを上回るリターンを得られなければ、ステークホルダーに対して分配できる利益を確保できないですし、その先の投資もできなくなります。
パーパスの実現や社会課題解決のためには、キャッシュが絶対的に必要です。元手がなければ何もできないことを企業は認識すべきで、リターンを上げてかつそれを再投資に回すサイクルをつくらなければなりません。