SXで日本の企業と社会は
「維新」を実現できるのか

 CFO的な思考で意思決定を行うSXを通じて、日本企業の姿勢が変わる可能性はあるのでしょうか。

土屋:いまがラストチャンスだと思っています。幸い東京証券取引所が上場企業に企業価値向上を要請した影響もあり、グローバルの投資家が日本企業を注視し始めています。こうした投資家と対話していくためにはCFOのレベルを向上させなければ、海外の投資家がまた逃げてしまいます。グローバルの投資家と真正面から向き合えるCFO人材を育て、リターンを上げることができる経営管理体制を築き上げることができれば、日本はまた復活すると信じています。そうでなければ、再びジャパンパッシングで資金が日本から逃げ出し、リスクマネーを供給する人がいなくなる状況に陥ってしまいます。

 投資家の厳しい目から逃げることなく向き合い、それに応えられるだけの企業変革を実践するという姿勢が重要なのですね。

土屋:日本企業のIRは、開示規制や投資家の形式的な開示要求に忠実に応えてきました。これからは投資家に迎合的なIRではなく、攻めの姿勢が重要です。それは情報開示において、量ではなく、投資家が本質的に求めているものを示すこと。それこそが社会課題の解決とリターンの両立であり、SXの推進につながります。

 日本は世界有数の情報開示大国です。中期経営計画や詳細な統合報告書をつくっている市場は日本くらいです。これだけ情報を開示しているのに、投資家から批判されるなんておかしいでしょう。批判を覆すには、自分たちに本質的に求められているものは何なのかという視点に立ち返り、ビジネスでどう社会課題解決とリターンを両立させるかを雄弁に語るべきなのです。

安東:現場を見ていても、経理部門は財務・会計の数字のみを管理するに留まり、人事部門は人的資本を意識した採用計画を立てるも事業戦略とリンクしていない、サステナビリティ部門はESGデータの収集で手いっぱい、というケースが多々見受けられます。これでは組織や情報のサイロ化は解消されず、ガバナンス体制において複雑な問題を抱えたままとなってしまいます。データの取り扱いだけでなく、そうした体制を根本的に変えなければいけないという危機感は非常に強く感じます。

土屋:コーポレートガバナンス・コードが策定されて、もう9年経過しています。9年経ってようやく東証が要請を出さざるを得ない状態、というスピード感だと、この先の10年も無駄になってしまいます。

 明治維新は10年余りの間に社会を一新する変革を成し遂げました。だからこそ我々は、緊迫感、危機感を持って変革に挑む「令和維新」を実現したいのです。

 経営者が維新の志を持てば、企業変革と社会変革の両立も可能になる、ということですね。

土屋:維新は、変革への熱意がなければ実現しません。私たちはコンサルティングファームですが、アドバイザー的な立ち位置ではなく、SXの戦略策定の上流から、M&Aのトランザクションを含めた下流まで全メニューを揃えて、ワンストップで対応できる戦略部隊です。

 企業の課題に寄り添って一緒に課題解決するからには、私たちも実践力を試されているという自覚を持って、事業ポートフォリオの組み替えから事業のベストオーナー探しまで、徹底的に伴走できるポテンシャルと熱意を持って企業と社会の変革に臨んでいます。

 

◉企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部
◉構成・まとめ|Pad(高城昭夫、大橋史彦) ◉撮影|太田隆生