独自の技術を持ち、成長や経営再建の道筋が立つ中小企業を受け入れる

 日本製造によるM&Aは22年に10社、23年に11社と急ピッチで進められてきた。当初は10年くらいかけて現在の規模になることを想定していたが、経営者の高齢化やコロナ禍による経済停滞などの影響もあってオファーが殺到し、結果的にペースが速まったという。現在も月に50件を超えるオファーが届いているそうだ。

事業承継に悩む中小企業30社超をM&Aで結集。グループ企業のそれぞれの強みを掛け合わせ世界へと挑むコロナ禍により2022年以降M&Aのオファーが急増
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 ペースが速過ぎる点を危惧する声もあるが、「遅くなればなるほど、その企業の経営資本はどんどん毀損していきますから、早く手を打つことが重要。平均的には、検討に1~2週間、M&A自体の成立は2~3カ月というペースで進めています」(田邑社長)。

 もちろん、やみくもにM&Aを行っているわけではない。売り上げが低迷していても、独自の技術を持ち、グループ企業との連携などによってさらなる成長や経営再建への道筋が立つ企業を厳選している。M&Aというと、一般に敵対的買収のイメージがあるが、日本製造では次のようなスタンスで臨んでいる。

「企業買収でイメージされがちな急激な改革ではなく、資本提携と捉えて1年程度をかけて経営再建を図っています。事業承継を検討しているオーナーの多くは事業や従業員、取引先を守りたいという思いが強いという印象です。また改革を行うときは財務などのデータで道筋や選択肢を示してその必要性をしっかりと従業員に説明し、1年程度かけて進めています」(田邑社長)

 これまでにグループに参画した企業はオーナー企業も多く、それぞれが独自のやり方で決算業務を行っていたが、日本製造のグループとなり各社にクラウド会計ソフトを導入、24年7月から連結決算を開始した。月次試算表も作成し、経営状況の変化にいち早く気付くことができる体制を整えている。

23年10月にグループに参画、経営再建への道を歩み始めた北一電気

 では実際、日本製造にグループ入りした企業側の意見はどうなのだろうか。23年10月に参画した北一(ほくいち)電気に話を聞いた。同社は1969年5月に新潟県で創業、車載用電子部品のプリント基板事業とワイヤーハーネス事業を主に手掛けてきた。従業員数は78人(24年7月21日現在)で、売上高は31.8億円(23年度)。

 グループに参画した当初は何も変化はなかったそうだが、24年4月に従業員に対して財務内容の開示が行われ、続いて6月に赤字だったワイヤーハーネス事業の廃止と人事異動、併せてリストラも実施された。営業部と製造部を統括する北一電気の内山智也執行役員は次のように話す。

「今まで見ることができなかった財務内容が開示され、私を含めて従業員は初めて自社の財務状況を知ったんです。特にワイヤーハーネス事業に関しては、従業員の約半数が携わっていたにもかかわらず、利益率が低いと分かって『やはり』と思いました。今回のM&Aではそれらの数字が明らかになり、経営も刷新。進むべき方向性が明確になりました。今後は従業員のモチベーションのアップに取り組んでいきたいと思います」

事業承継に悩む中小企業30社超をM&Aで結集。グループ企業のそれぞれの強みを掛け合わせ世界へと挑む北一電気 内山智也執行役員

 同社で経理を担当する木村直美管理チームリーダーも、今回の経営改革を前向きに捉えている。「これまで当社はトップダウンでしか物事が動かず、優秀な人材が何人も辞めていきました。ですが、これからは責任や実績などに応じて従業員へ利益が還元されるような企業に変わっていくと期待しています」と語る。

 また今回のグループ入りに関しては買収決定後、合併直前に知ったそうだが、2人とも「M&Aによって日本製造に参画してよかったと思います」と口をそろえる。

「日本製造の経営陣は働き方改革への挑戦も支持してくれています。『週休3日が可能なら実現してはどうか』という話も出ており、そうした先進的な取り組みによって優秀な人材が集まる魅力的な企業にしていけるのではないでしょうか」(木村管理チームリーダー)

事業承継に悩む中小企業30社超をM&Aで結集。グループ企業のそれぞれの強みを掛け合わせ世界へと挑む北一電気 木村直美管理チームリーダー

 一方でグループへの参画によるシナジーもすでに表れている。日本製造の紹介によってグループ内の田向電子工業からプリント基板の受注に成功。「逆に今後、当社からグループ企業にプリント基板の図面作成などを依頼する機会もあるでしょう」(内山執行役員)。