マイクロンの果たす役割とは

 マイクロンでは、データセンターなどで用いられるAIやスーパーコンピューターに必要とされる高性能メモリーから、スマートフォンや自動車、パソコンにも使用される低消費電力DRAM(一時記憶用メモリー)まで、幅広い製品ラインを揃える。とりわけ、同社が力を入れるのが、AI向けの「最高性能レベルのDRAMメモリー」と自負する「1β(ワンベータ)DRAM」を積層した世界最高速・最大容量レベルを誇るHBM3E(広帯域メモリーの最新世代品)だ。かつては半導体メモリーにおいて、コスト競争力で勝負していた同社だが、近年では、高品質、高性能製品に重点を置いている。「マイクロンのHBM3Eは競合他社の同製品と比べても約30%低い消費電力を実現している」(バーティア氏)。

 そして、その世界最高性能レベルの1βDRAMの製造を手掛け、世界市場に供給するのは、マイクロンの広島工場(東広島市)である。「1βDRAM」は、2022年後半に広島工場で製造が始まった。現在開発中の次世代メモリーである、「1γ(ワンガンマ)DRAM」では、メモリー製造の際、半導体ウエハーに複雑な回路を書き込む技術として、極端紫外線(EUV)露光という新しい技術が用いられており、25年に広島工場で製造が開始される予定だ。このように広島工場は、単なる製造拠点ではなく、開発の中心地でもある。

半導体メモリー大手のマイクロンが「AI時代」に日本での存在感を一気に高めている理由マイクロン・テクノロジー
上級副社長 グローバル事業担当
マニッシュ・バーティア
米マサチューセッツ工科大学卒業、同大学院で機械工学修士号を取得。MITスローン経営大学院で経営学修士号を取得後、Leaders for Manufacturingフェロー。Western Digital Corporation、SanDisk Corporation、Matrix Semiconductorで経営幹部を務め、McKinsey & Companyではコンサルティングを担当。2017年マイクロン入社、半導体製造部門で活躍。現在、ファブおよび組み立て/テスト製造、パッケージングとテスト開発、品質、サプライチェーン、購買、政府関連公共業務の他、情報テクノロジー、スマートマニュファクチャリング、AIなどの業務を担当。25年にわたり、エンジニアリングと事業に携わる。日米経済協議会の取締役も務める。

「最先端技術への投資を継続し、競合他社より先を行き、エヌビディア、クラウド企業、自動車企業のような顧客と緊密に連携し、彼らのニーズを満たし、どこよりも優れた製品を提供すること。そのため、広島の施設では、開発と製造、両面での投資を継続している」とバーティア氏は強調する。過去10年間の累計で、広島の施設を中心に180億ドルを投資し、今後を含めると研究開発や設備投資に220億ドルを投入する計画を立てている。

 現時点でのマイクロンの広域帯メモリー(HBM)での世界シェアは第3位とされるが、広島工場の開発・製造能力の増強を通じて、シェアの拡大を目指す。実際、現在、24年のHBMは完売しており、25年もほぼ完売状態だという。販売においては、取引先と固定価格で1年以上の長期契約を結んでいる。固定価格での長期契約は、メモリー業界史上でも非常にまれであり、同社のHBMの品質の高さを示している。

日本との深い関係

 意外にも、世界最高レベルの性能の半導体メモリーが日本で開発・製造されているというわけだが、実は、マイクロンの日本との関わりは、10年以上前にさかのぼる。マイクロンは、13年にエルピーダメモリを買収し、以来、広島工場で製造している。エルピーダメモリ出身のエンジニアも含めた広島工場の技術開発チーム、マイクロンが拠点を置く神奈川・橋本技術センターの設計チーム、さらには、米国のプロセス開発チームなどが協力し、マイクロンの成長を加速するR&Dの原動力となっている。

「コロナ禍以前、マイクロンは、半導体メモリーにおける技術力で韓国の競合他社に1年遅れていたが、日米のR&D、設計、技術開発に継続的に投資した結果、わずか5年で韓国の競合他社より1年先行するまでになった」とバーティア氏は胸を張る。

 マイクロンは広島工場の開発能力と製造能力、そして橋本技術センターの設計能力を非常に重視しているが、それは積極的な投資姿勢からもうかがえる。マイクロンは日本政府から22年に465億円、23年に1920億円、合わせて2400億円弱の助成を受け、特に2回目の1920億円助成の折には、その助成金を含め、マイクロンは数年かけて、5000億円を日本に投資すると発表している。また、日本には4000人以上の社員を擁し、その70%が開発・製造に関わるエンジニアで、技術職とするとその比率は90%に達するという。