サプライチェーンにおける日本企業とのパートナーシップ

 地政学的なリスクが増し、半導体が戦略物資と位置付けられる中で、製造業にとってはサプライチェーンをいかに強靱に保つかも課題となっているが、マイクロンは、日本の多くの半導体関連企業との協業体制に傾注してきた。グローバルな製造拠点の一つとして日本を位置付け、日本の装置メーカーや材料メーカーから製品を調達している。これは、同社の競争力強化と日本の半導体エコシステムの発展の両面で重要な意味を持ち、グローバルなAIサプライチェーンにおける日本の地位向上にも貢献している。

 マイクロンの日本拠点が最先端レベルのAIメモリーを供給することで、日本は単なる部材供給国ではなく、AIエコシステムの中核を担う国としての地位を確立しつつある。「日本の半導体エコシステムの真の強さを認識しており、それが、われわれが日本市場で成功している理由の一つであり、世界的にも成功している理由の一つです」とバーティア氏。

 具体的には主に「三つの分野」で日本企業と協業している。一つは工場の建設。広島工場の建設は全て日本の建設パートナー企業によって行われている。二つ目は材料。広島工場で使用される材料の80%がJSRや信越化学工業などの日本企業から調達している。三つ目は製造装置。40%以上を東京エレクトロンやSCREEN、キヤノン、ニコン、日立国際電気などから調達している。「日本のサプライチェーンは、マイクロンの技術力を支えています。他方、マイクロンが業界最先端レベルのメモリーを日本のサプライヤーと共に製造することで、日本企業も技術力を強化できると思います」(バーティア氏)。

 例えば、前述したように、マイクロンでは、EUVの露光技術を広島工場で25年に導入する予定で、これは、半導体ウエハーに微細で複雑な回路を書き込む(回路を印刷する)ためのものだが、これには同時にEUV用の他の最新技術も投入される。例えば、東京エレクトロンはマイクロンが導入するEUV装置向けに半導体ウエハー上に感光剤(フォトレジスト)を塗布・現像する最新のコータ・デベロッパ(塗布現像装置)を提供する。

 EUV露光技術はこれまで用いられてきた露光とは異なるもので、これは日本の装置メーカーや素材メーカーにとっても、非常に大きな利点となる。この技術を導入することで、次世代化学物質の改良などを含め、製造技術をさらに向上させるための、研究開発を行うことができるからである。「サプライチェーンは、経済面や供給の継続性だけでなく、日本が装置や材料で業界をリードし続けるために、共に技術革新を行い、新しい解決策を開発するものです」(バーティア氏)。

積極的な人材の開発・育成の施策

 AI時代の本格的な到来を見据え、マイクロンは「半導体分野の人材開発・育成」について、極めて重要な課題と位置付けている。日本においても多角的なアプローチで人材の開発・育成に積極的に取り組んでいる。「17年にマイクロンに入社した際、私はマイクロン・ジャパンを全てのエンジニア、女性エンジニアや外国人エンジニアにとっても、“最高の職場”の一つにする、との目標を掲げ、実行してきました」とバーティア氏は強調する。

 新卒採用数を増やす中で、特に女性エンジニアの比率向上には力を入れており、過去の2年の新卒採用では、約35%が女性だ。ヨガや運動のための施設、搾乳室、男女別の休憩室やトイレなど、多様な従業員のニーズに応える設備を整えて環境整備にも努めてきた。

半導体メモリー大手のマイクロンが「AI時代」に日本での存在感を一気に高めている理由
半導体メモリー大手のマイクロンが「AI時代」に日本での存在感を一気に高めている理由マイクロンでは、女性エンジニアの比率向上と育成には力を入れている。2024年6月18日には広島工場で、国際女性エンジニアリングデーを祝す社内イベントを実施。当日、広島県初の女性副知事の玉井優子氏を招き、マイクロン社員と共にキャリア形成のヒントや育児・職場環境への復帰など、女性を取り巻く環境について多面的なテーマで意見交換を行った

 日本に留学中の外国人学生の採用にも積極的に取り組んできた。日本で学ぶ、インド、マレーシア、韓国、フィリピンなどの留学生を何百人も採用し、半導体産業で活躍する機会を提供している。現在、マイクロンの日本法人では34カ国の国籍の従業員が在籍している。

 こうした取り組みのかいもあり、Great Place To Work® Institute Japanにより、4年連続で「働きがいのある会社」に選ばれるなど、外部からも高い評価を得ている。

 産学連携による人材育成にも傾注する。23年のG7広島サミット時に発表された日米11大学とのパートナーシップは、その代表的な事例だ。マイクロンと東京エレクトロンが共同で、日本の5大学(広島大学、名古屋大学、九州大学、東北大学、東京工業大学)とバージニア工科大学、ワシントン大学など米国の6大学と連携。教授陣や学長と協力し、交換留学、奨学金、研究資金、教員支援を通じて、最大5000人の半導体分野の学生を育成する計画で、日米の半導体工学の連携を強化し、技術発展につなげるものだ。「他社に先んじて、日本で、若く才能のあるエンジニアたちが安心してキャリアを築き、家庭を築きたいと思えるような環境づくりを行ってきたと自負しています」(バーティア氏)。

半導体メモリー大手のマイクロンが「AI時代」に日本での存在感を一気に高めている理由

 日本の長期的な社会課題の一つが人口減少であることは周知の通り。(1)日本国内における人材育成、(2)女性労働力の育成、(3)国際的な労働力の育成――。この3点は、いずれも日本の経済発展、ならびに社会的・文化的発展に寄与するものだ。

「マイクロンの人材育成が結実し、日本が半導体メモリー分野で世界をリードする最強の人材を提供することで、マイクロンも、世界の半導体メモリー業界をリードすることができます。今後も継続的な投資を続けていくつもりです」とバーティア氏は、人材育成に積極果敢な姿勢を見せる。

 マイクロンの日本での積極投資や日本へのコミットメントは、明らかに日本の半導体業界全体の底上げにつながることが期待できるものであり、同社の今後の展開から目が離せない。

●問い合わせ先
マイクロンメモリ ジャパン株式会社
https://jp.micron.com