──具体的には、どのような課題でしょうか。
「執行体制と機能の設計」「ポジション要件の定義」「経営幹部候補の育成」「経営幹部の外部採用」の4つです。経営幹部サクセッションを効果的に機能させる前提となるのが、「執行体制と機能の設計」です。前述の実態調査では、回答企業の半数以上が「社内人材の実情に引きずられ、ゼロベースで機能の設計ができていない」と回答しており、「まず箱を考え、人を決める」という基本原則に従うことの難しさを示しています。
足元で多くの日本企業に求められる執行体制改革のポイントは、過去の功労者ではなく将来必要な機能の集合体とすること、深い議論と機動性を担保できるサイズ(メンバー構成)にすること、事業ポートフォリオの見直しに適した体制とすること、の3点です。
この3つがポイントとなるものの、一つの正解があるわけではありません。自社にとってふさわしい固有解を追求しなければなりませんが、その際に参考になる考え方の一つとして、「PERFORM-TRANSFORM」モデルがあります。
既存事業の安定的な運営や生産性向上などPERFORMに重きを置く場合は、事業責任者を経営トップチームに入れ、ボトムアップ型の経営を行うのが合理的で、おのずと経営チームの人数が増えます。一方、事業ポートフォリオを大胆に組み換えるといった全社的な変革をスピーディに実行するには、少数のメンバー構成により、機動力を優先する必要があります。
自社が置かれた状況に応じて、PERFORMかTRANSFORMのどちらに重心を置くかにより、執行体制を最適化するのが、このモデルです。
コーン・フェリー・ジャパン
コンサルティング部門 シニア クライアント パートナー
次に「ポジション要件の定義」ですが、私たちの調査では、経営幹部のポジションごとの要件を適用している企業は44%に留まりました。
特に、高い専門性が求められるCFOやCHRO(最高人事責任者)といった機能系CxOのサクセッションを戦略的に進めていくには、各ポジション固有の役割・要件を定義することが欠かせません。
ですから、経営チーム全体で担うべき共有の役割と、各ポジションに配分される固有の役割の2つの視点から、自社の戦略的文脈に沿って要件を導き出す必要があります。
たとえば、同じCTO(最高技術責任者)というポジションであっても、基礎研究に重きを置くのか、市場に近い場所で商品開発を重視するのかで、求められる経験やコンピテンシーは変わります。
ポジション要件として経験とコンピテンシーを定義する企業は増えていますが、当社ではそれに「性格特性」と「動機」を加えた4つの要素で構成することを推奨しています。実際、性格特性と動機がポジションとフィットしている場合、エンゲージメントが7.5倍も高まることが調査から判明しています。
専門性と経営感覚を併せ持つ候補者を戦略的に育てる
3つ目の課題である「経営幹部候補の育成」については、どの企業でも何かしらの取り組みは始めていますが、問題は従来のアプローチでは、新しい時代の経営幹部をつくり込めないということです。
まず、後継候補者の選出ですが、51%の企業が現任者からの推薦をそのまま候補者リストとして登録しています。最初の段階でしっかり厳選しないと、育成の投資効果は高まりづらいため、入り口段階から外部アセスメントを実施するなど客観性を担保しながら候補者を選ぶことが大切です。
また、経営幹部の育成法として、海外では熟慮された修羅場機会の付与と外部専門家によるコーチングを掛け合わせて適用することの有効性が認識されており、日本でも検討に値すると思います。