今回の調査を通して、機能系CxOに求める専門性の深さに関しては、日本企業の中でも意見が大きく分かれました。投資家・社会からの要請に直接対応する機会が増えている企業では説明責任を果たすうえで高い専門性の必要性を痛感している一方、専門性より社内文脈の理解と社内人脈を重視するとの声も多く聞かれました。

 これが育成方針にも色濃く反映されており、欧米企業の現実との間に乖離があります。日本においては、高度な専門性が不可欠な機能系CxOにもP/L(損益計算書)責任を伴うゼネラルマネジャーとしての経験を積ませたいと考える企業が過半数ですが、欧米大手企業の機能系CxOで事業責任者の経験を持つ人は14%にすぎないのが現実です。

 サクセッションマネジメントは、将来の多様なシナリオに備えることが大きな目的ですので、“手なり”では育つことがない、専門性と経営感覚の両方を備えた候補者の育成に計画的に取り組むべきだと思います。

──「経営幹部の外部採用」は日本でも増えていますが、どのような課題があるのでしょうか。

 経営幹部を外部から採用することへの抵抗感は薄れていますが、社内に候補者がいない場合に限って検討する企業が主流で、早い段階から異能を積極的に採用する姿勢が一般化しているとはいえません。

 経営幹部の外部採用が一般的な欧米企業においても、実はポジションによって事情は異なります(図表を参照)。CDO(最高デジタル責任者)は外部採用比率が8割を超えており、CFOも4割強となっていますが、CHROは3割未満、事業責任者は1割ほどで、日本と同じように内部昇格が多いことがわかります。

 外部人材は採用してからが難しいという声をよく聞きますが、欧米ではメンバーが代わるたびに経営チーム全員が参加して、外部専門家がリードするアシミレーション(相互理解の深化)やチームチャーター(憲章)制定のワークショップを行うなど、多様性を強みに変えるための努力を怠りません。

 経営執行チームのサクセッションまで監督側である社外取締役や指名委員会が主導するのは現実的ではなく、あくまで執行側のアジェンダとして、オーナーシップを持って取り組むことが重要です。

「まず箱を考え、人を決める」という原則を徹底しながら、自社に適した固有解を追求することによって、時代が求める経営幹部サクセッションへと進化させていくことが期待されます。

[プロフィール]
増田智史
Tomofumi Masuda
コーン・フェリー・ジャパン コンサルティング部門 シニア クライアント パートナー

ボンド大学大学院卒業(MBA)。大手飲料メーカー、米系非営利人事コンサルティング会社を経て2012年より現職。多数のグローバル企業における経営人材サクセッション、エグゼクティブ・アセスメント、タレントマネジメント戦略の立案・推進プロジェクトをリード。サクセッションマネジメントや経営人材育成に関する寄稿・講演の実績多数。共著に『Future of Work 人と組織の論点』(日本経済新聞社)。
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