生成AIの急速な進歩とともに、生成AIをビジネスに活用するケースが増え、その発明の特許出願も増加している。注意すべきは、「著作権侵害」と「発明を見過ごしてしまうリスク」があること。生成AI時代の知財戦略について、専門家の弁理士2人に聞いた。
元ネタを知らなくても
著作権を侵害するリスクがある
生成AIの周囲では、生成AIそのものの開発に携わる研究者や事業者だけでなく、生成AIを利用してサービスやソフトウエアを提供する事業者や、生成AIで創作活動を行うクリエーターが増えている。そこで問題となるのが、著作権侵害のリスクだ。
日本弁理士会の高橋雅和・著作権委員会元委員長(令和5年度)は、「今、メディアでは、“生成AIは上司であり、部下であり、同僚である”といった表現が見られますが、この表現をそのまま受け取って利用してしまうと見過ごされやすいリスクがあります。生成AIの進化は加速していて、まるで人間と対話をしているように錯覚してしまいますが、生成AIはあくまでもプログラム。何かあったときに責任を取ってくれるわけではありません。また、企業の秘密情報や個人のプライバシーも守ってくれる保証はありません。非常に有能ではあるけれど、むしろ“無責任な第三者”としてイメージすべきです。まずそのことに留意した上で、どこでどのように使うと有効かを考えるべきです」と話す。
生成AIと著作権の関係で注意が必要なのは、従来と違って、利用者が認識していないものに対して「著作権の侵害である」と指摘されるリスクがあることだ。
「例えばキャラクタービジネスを展開するとき、創作したキャラクターが依拠のない完全にオリジナルなものであれば、たとえ他人が創ったものと似ていても、まねではないと説明することができます。ところが生成AIを利用してキャラクターを創った場合、生成AIがすでに学習している可能性があり、利用者が元ネタを知らなくても、著作権を侵害するリスクがあるのです」(高橋元委員長)
基本的に著作権侵害の案件は、侵害された本人からの訴えがベースになるが、SNS時代には別のリスクも潜んでいる。SNS上で“まねではないのか”という指摘があって批判が集中し、炎上してしまうケースだ。こうなると著作権の権利者との紛争にとどまらず、場合によってはそれ以上の大きな損害がもたらされる恐れがある。
生成AIと著作権の問題に関しては、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が、「AIと著作権に関する考え方について」という文書を発表している。著作権侵害に関する判断は、最終的に司法の手に委ねられるが、生成AIの利用段階では当事者の判断が重要だ。
「文化審議会の文書は、生成AIと著作権に関する考え方がとてもよく整理されています。ただし内容が専門的なため、一般の方が読んでも理解しにくい部分があると思います。生成AIを利用するときは、自分の創作と生成AIの領域の“線引き”を行い、著作権侵害のリスクを判断しなければなりません。そのためにはやはり、専門家である弁理士の意見が必要になる。相談できる環境があれば、生成AIをもっと積極的に活用できるようになるはずです」(高橋元委員長)
次ページからは、そこにあるビジネスチャンスを見過ごさないため、生成AIと“特許”との関係について解説する。