京都大学発のベンチャーが独自の
ソリューションを提供

 共同研究の一翼を担うアナモルフォーシス ネットワークスは、製造業の人手不足問題を解決することを目的に事業を展開しているベンチャー企業である。代表的な事業内容は、AI・画像処理技術を駆使して製品の外観検査の自動化を行い、省人化や生産コストの削減を実現するソリューションを提供すること。

「少子高齢化と若者の製造業離れにより人手不足が深刻化しているため、製造業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)による『人』から『データ・機械』への依存転換が期待されています。特に、パターン化された検査・検品業務の自動化は画像処理AIと相性が良いものの、AI構築には一定のノウハウが必要で、多くの企業が苦戦しているのが現状です」

 そう説明するのは、同社の炭谷翔悟社長。

AI制御アルゴリズムの開発で製造プロセスの自動化を実現。日本の製造業のDX化に貢献するアナモルフォーシス ネットワークス
炭谷翔悟代表取締役社長

 もともと製造業の外観検査は、人間の五感を使って品質を判定する“官能検査”である。寸法測定器などで自動検査ができる形式知のデータではなく暗黙知のデータであるため、自動検査の実現が困難だった。そこで同社では、NG限度見本(外観検査において良品・不良品の判断が難しいときに確認するための製品見本)をAIに学習させることで、官能検査である外観検査の自動化を実現させた。

AI制御アルゴリズムの開発で製造プロセスの自動化を実現。日本の製造業のDX化に貢献する装置の中は高温のためセンサーを置くことができない。溶融帯の変化を捉えるために外部にカメラを設置している

「私たちが得意とする技術は、AI自身が自律的に考えてパラメーターをチューニングする“オートノマス学習”。例えば、当社の製品である『NuLMiL(ヌルミル)』は、画像上の不良部分を色塗りするだけで欠陥を分類できる外観検査AIで、良品学習と不良品学習を組み合わせたハイブリッド学習により、少量のデータからでも100%に近い精度で不良品を検出します。この製品にオートノマス学習を使うと、現場の検査員が画像上に不良がどこにあるのかをフィードバックするだけで、エンジニアの助けを借りずに高精度な外観検査AIを簡単に作成できます。オートノマス学習は、いわば、画像処理における熟練者の経験と勘に頼る部分を自律的に最適化してくれる技術なのです」 (炭谷社長)

 アナモルフォーシス ネットワークスは今回のプロジェクトに、そのオートノマス学習を応用した。FZ法装置内で起こる現象をカメラで捉え、同社の画像処理技術を用いて暗黙知のデータを形式知に変え、AIによる自律的なパラメーターの調整を経て、操業の自動化を実現させようとする試みである。こうして同社と名古屋大学の共同研究チームは、限られた操業データから結晶成長の重要な部分である溶融帯の変化(ダイナミクス)を推定するモデルを構築し、強化学習を利用して結晶成長を制御するAI制御アルゴリズムを開発した。