[第1部]新技術の創造と国際ルール作りへの関与を
市村産業賞功績賞を受賞した日産自動車の開発テーマは「EVの普及に資する軽自動車用電動パワートレインシステム」である。軽EV(電気自動車)「サクラ」は、同社では量産EVの3車種目となる。高い商品性を支えているのが、新たに開発された小型トルクモーターやバッテリーなど。電動パワートレインの配置にも工夫がある。
パワートレイン・EV技術開発本部
電動システムアーキテクトグループ
主担
新井健嗣氏
「『軽自動車のEV』というのが、日本ならではの特徴だと自負しています。リチウムイオン電池では吉野先生、EVのモーターに欠かせないネオジム磁石では当時住友特殊金属におられた佐川眞人先生が大きな貢献をしました。日本人として誇らしく思います」と日産自動車の新井健嗣氏は語る。リチウムイオン電池の安全性にも細心の注意を払っているという。
同じく市村産業賞功績賞を受賞したIDECのキーワードも安全だ。受賞テーマは「ロボット作業者の安全確保を可能としたイネーブルスイッチ」である。
「産業用ロボットを操作する現場で作業員が巻き込まれる事故が多かったことから、当社は97年、事故ゼロを目指してスイッチの開発を始めました。ロボットの危険を感じたとき、操作者がスイッチから手を離したり、強く押したりすることで機械を停止させれば事故を減らせるのではないかと考えたのです」とIDECの藤田俊弘氏は語る。そこで、オン/オフに加えて、三つ目のポジションとして用意したのがイネーブルスイッチだ。
名誉顧問 Chief Safety, Health and Well-being Officer
藤田俊弘氏
従来、人間工学に基づくスイッチはあまり存在せず、ユーザーの理解を得るのは容易ではなかった。そこで、ユーザー企業やロボットメーカーと共に実証実験を繰り返し、安全性と有効性を確認。欧州での会議にもたびたび参加して、国際ルール作りの議論をリードした。現在では、同社の成長をけん引する商品に育っている。
パナソニック プロダクションエンジニアリングの受賞テーマは「低コスト・高精細ディスプレイに資する産業用インクジェット装置」である。これにより、世界で初めて印刷方式での大型有機ELパネル形成に成功した。同社の吉田英博氏はこう説明する。
生産設備事業センター
PE技術部
部長
吉田英博氏
「開発を始めた当初は失敗ばかりでした。ノズルからインクが出たり、出なかったり。出たとしても、インクの体積がバラバラだったり。メカと制御の技術を組み合わせて、ある程度のめどが付いてからは大面積化へのチャレンジです。困難の連続でしたが、今では2畳サイズの印刷ができるようになりました」
パネルディスカッションには市村地球環境産業賞功績賞を受賞したIHIの河西英一氏も加わった。受賞テーマは「カーボンニュートラルに資する高効率木質バイオマス専焼発電技術」。日本製鉄の開発者と共同での受賞である。
資源・エネルギー・環境事業領域
カーボンソリューションSBU 開発部
調査役
河西英一氏
「石炭火力発電所で少量のバイオマスを混焼するケースは少なくありませんが、その比率を高め、カーボンニュートラルに貢献すべく開発を進めました。大量のバイオマスを効率よく砕くのは容易ではなく、高いハードルがありました。また、石炭火力発電所で実証を行うには、発電事業者の理解が欠かせません。リスクのある試験に協力してくれたのが日本製鉄です」と河西氏は振り返る。
14年に30%の混焼率を達成し、23年度には100%、つまりバイオマス専焼の商業運転を実現した。いわば、石炭火力発電所のGX(グリーントランスフォーメーション)である。
竹内 薫氏
第1部のパネルディスカッションの最後に、モデレーターの竹内氏は「新しい時代において環境、安全性、国際ルール作りなどはますます重要になるでしょう。こうしたキーワードに即した開発テーマを聞くことができ、多くのヒントをもらえたように思います」と話した。