パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻開始、世界的な半導体不足による混乱など、この4年ほどで世界は大きく揺さぶられ、グローバルのサプライチェーンにとって試練の連続となりました。この間、欧米企業の変化に対する反応スピードの速さとリスクコントロールの周到さは日系企業を大きく上回り、両者の違いを見せつけられることとなりました。

 日系の製造業は、既存の成功体験にとらわれ、ここ数年の劇的な変化に対応が遅れたわけですが、その間に、市場がCE など、新しいビジネスモデルへの転換を促す動きに向かっていることに対して感度も十分ではなかったと感じます。自社の成長戦略にCE を掲げてパイオニアとして歩みを進めるSMFL から見て、日系企業がCE にフィットした事業モデルに転換していくためには何が必要だとお考えでしょうか。

関口 SMFL は「サーキュラーエコノミーのプラットフォーマー」を目指しており、これまでの強みを活かして、果断にCE のプラットフォーム構築に貢献していきたいと考えています。当社の本業はリース業であり、これまでの文脈で表現するなら、「リサイクリングエコノミー」と表現できる役割を担ってきたといえます。これを時代の要請を受けてとらえ直し、CE の中核でさまざまなプレーヤーが活躍できるプラットフォームを提供する存在へシフトしようとしています。これは、我々の使命だと認識して取り組んでおり、2023年度にスタートした中期経営計画に明記しております。

 グローバルの動向を調査するに、CEに関連するガイドラインやレギュレーションは、準備期間を経て徐々に本格運用に移りつつあります。ただ、日系企業の関心や問題意識は十分に高まっていません。CE と環境対応を同義にとらえ、環境対策で満足されている企業経営者も多いのではと感じています。これまでの売り切り型の事業モデル(リニアエコノミー)を大胆に転換し、自社の販売部門など、組織の変革も伴う大きなパラダイムシフトととらえるべきであり、取り組まないという選択肢はないと思いますし、対応が遅れればリスクになります。いま企業は、まず着手して一歩を踏み出す時期に来ていると考えています。

サーキュラーエコノミーは時代の要請 世界に伍して日本が輝くビッグチャンス関口栄一
三井住友ファイナンス&リース 取締役 専務執行役員
1986年4月住友銀行(現 三井住友銀行)入行。2015年4月執行役員 ホールセール統括部長、17年4月常務執行役員、三井住友フィナンシャルグループ 常務執行役員(現職)。20年5月三井住友ファイナンス&リース 専務執行役員に就任。21年6月取締役専務執行役員 、企画部・広報IR部・サステナビリティ推進部・関連事業部担当役員、デジタル担当役員。

山中 まったく同感です。私は20年以上、製造業のサプライチェーンに関わる支援をしてきましたが、これまでは、大量生産・大量消費のパラダイムの中で、いかに理想のQCD(品質・コスト・納期)を追い求めるかがテーマでした。ところがESG 投資、環境価値、GHG(温室効果ガス)削減など、サステナビリティの視点が浸透するにしたがって、これまでの事業モデルでは対応が難しく、軌道修正が必要になっています。26年辺りを境に、欧州市場を中心にさらに厳しい規制への対応が求められることも予期されます。

 特に製造業においては、製品CFP(カーボンフットプリント)などによって、原料調達・製造から廃棄に至るまでメーカー責任が問われるスキームなっていますし、日本版DPP(デジタル製品パスポート)などの共通デジタルフォーマットで、継続的に追跡する仕組みも整いつつあります。こうして年を追うごとに厳格化される環境対応を高いレベルでクリアすることは、もはや従来型の製造業のビジネスモデルや価値基準では到達できない可能性があります。CE を前提とした循環型システムへのシフトが必然であることが見て取れます。

関口 まさにCE は環境問題の領域に留まるものではなく、経済の仕組みそのものの変革であり、経営戦略自体の根幹に関わるものです。また、これまでISO(国際標準化機構)などの国際的な取り決めでは、欧米に主導権を握られてきましたが、CE ではルールメイクから日本が世界に存在感を示せるよう、プロアクティブに関与していくべきだと考えています。政府も24年7月31日に、「循環経済の実現を、我が国の国家戦略として着実に推し進めるべく、循環型社会形成推進基本計画における取組等の関連する施策を、政府全体として戦略的かつ統合的に行うため、循環経済に関する関係閣僚会議を開催する」とのコメントを内閣官房が発信し、後押しを表明しています。

CEに取り組まなければ競争優位性を失う

山中 CE は環境対応でも温暖化抑止でもなく、経済の仕組みそのものであるということは、私も強く認識すべき点だと考えています。この理解を誤ると本質が見えなくなり、日系製造業の競争優位性を失いかねないリスクをもはらんでいると感じます。

 循環型の経済モデルにシフトすることは、経済安全保障の観点でも合理性があります。

 廃棄された製品や、製造途中の不良品または端材からリチウムやニッケル、コバルトなどのレアメタルを抽出して再資源化する仕組みを国内に構築し、企業にも回収・再資源化を義務化するなど環境整備ができていれば、海外依存度の高い資源の調達リスクは軽減されます。

 また、別の観点もあります。CE は、いつ市場に登場するかわからないディスラプティブなゲームチェンジャーに対しても強靭さを担保する経済の仕組みになると見ています。例えばオランダのFairphone という企業は、EU 市場で法的整備が進む「修理する権利」にいち早く対応しており、同社が販売する携帯電話は、ユーザーが自分でパーツを交換できるよう設計されています。カメラなど壊れたパーツだけを交換して修理でき、長く製品を使うことができます。これまで携帯電話自体を新規購入または機種変更することが前提だったビジネスモデルの業界において、この潮流が本格化すればメーカーのみならず、Tier1、Tier2などの部品メーカーにとって憂慮すべき脅威となるでしょう。ただ、これも自社および連携する他社とCE の仕組みが構築できていれば、対応が可能となります。

 私はCE 実現には、いわゆる動脈サプライチェーンに静脈サプライチェーンがうまく接合され、一つの流れとしてコントロールできている必要があると感じますが、この点についてお考えをお聞かせください。

関口 おっしゃる通りだと思います。これまでの「つくって売り切って完了する」リニアエコノミーではなく、回収や解体・粉砕、再資源化などの静脈サプライチェーンが管理され、再度動脈サプライチェーンに素材や部品として安定的に供給できる仕組みが整わないと前に進めません。ただ、これを行うには、製品の開発の段階から再資源化した素材や部品を組み込むことを想定しなければうまくいきませんし、静脈産業も含めたパートナーとの共創によって、CE のサイクルは成り立つと考えています。

山中 これまでも既存のサプライチェーン上にあるメーカー、小売り、卸が連携して廃棄ロス削減を目指す試みはありましたが、なかなか成功事例は生まれにくい状況がありました。その原因を考えた時、どこかがハブになって連携先を束ねる旗振り役となる必要があるのではないかと感じます。これをCE の構築に置き換えると、まさにSMFL のようなリース会社にその役割を担っていただきたいという思いがあります。

サーキュラーエコノミーは時代の要請 世界に伍して日本が輝くビッグチャンス山中義史
アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル SCM改革 戦略ユニット長
2001年アビームコンサルティングに入社。サプライチェーン全般の戦略策定、サプライチェーン改革プロジェクト、基幹刷新プロジェクトを多数手掛ける。現在はデジタルプロセス&イノベーショングループのSCM改革 戦略ユニット長を務める。18年農水省食品産業戦略会議専門委員。17年名古屋大学招聘講師、18年一橋大学非常勤講師など産学連携も推進。

プラットフォーマーとして日本のCEの推進役に

関口 SMFL が「サーキュラーエコノミーのプラットフォーマー」を標榜しているのは、前述した通りですが、実はこの方向に舵を切る判断をしてから長い時間が経過しているわけではありません。22年の後半から意識し始め、23年4月に発表を予定していた現在の中期経営計画のコアな戦略の一つとしてCE を盛り込むため、社内議論を重ねてきました。その中心となったのは、私が担当役員を務める「サーキュラーエコノミー推進WT(ワーキングチーム)」です。結果として、現在の中期経営計画に「サーキュラーエコノミーを実現していく第一人者としての活動」との一文を掲げるに至りました。欧州、特にオランダを中心にCE の潮流が先行している状況を認識していましたし、我々の既存の事業には、CE に取り組むためのケイパビリティが揃っていることもわかり、本格的に取り組むべく中期経営計画に明記することになりました。

 この1年ほどで行ってきたことは、世界を視野に入れた事例のリサーチや関連団体との関係構築、そして社内やお客様に向けたCE に関する勉強会や機運の醸成となります。

山中 自社に揃っているケイパビリティについて伺えますか。