関口 6つのケイパビリティがあると考えています。具体的には、金融、モノの所有・管理、コンサルティング、DX、流動化・証券化、顧客マッチングになりますが、中でもDX について強みがあると分析しています。

 具体的にDXでは、私どもが従前から提供している資産管理クラウドサービス「assetforce」(アセットフォース)を、CEのモデル構築・運用・効率化のソリューションとして活用できると確信しているからです。

 CEが成立するためには、トレーサビリティが大きな基礎的要件となりますがassetforce ではIoTやAI などを使いながら管理できるところにアドバンテージがあると感じています。

サーキュラーエコノミーは時代の要請 世界に伍して日本が輝くビッグチャンス「サーキュラーエコノミーは組織の変革も伴う大きなパラダイムシフトととらえるべきであり、取り組まないという選択肢はない。対応が遅れればリスクになる」

山中 まさにこれからは6つのケイパビリティを融合させ、プラットフォームを活用した成功事例を、一つでも多く生み出していくということになりそうですね。

CE成立のポイントは動脈産業と静脈産業の接合

関口 今後成功事例を積み重ねていくうえでのポイントは、動脈産業と静脈産業をつなぐところになります。これまでの動脈産業では、頻繁に静脈産業にリーチすることはありませんでしたし、逆に静脈産業側から動脈産業につながりを求める局面も少なかったはずです。この2つがつながることで循環が完成して初めてCE が成立するわけですし、その循環のハブとして我々が存在しなければならないと考えています。

山中 CE モデルの循環に加わってくださる企業のうち、素材や部品、最終製品をつくるメーカー視点で考えると、いくつものクリアすべきハードルがあるように感じます。エコデザイン設計と呼ばれる再生資源を組み込む設計思想を取り入れるのはもちろんのこと、日本のモノづくりの根幹である品質基準の一部見直しも必要になるでしょう。加えて、動脈サプライチェーンへの循環においても、再生材の安定調達が課題になります。数週間~1カ月先に再生材がどれだけ確保できるのかがわからないのでは生産計画や調達計画に反映させることはできません。現行の売り切りモデルを続ける限り、メーカーが再生材を計画的に安定確保することは困難と考えます。また、静脈産業における回収・分別・高品位化などのコストをCE モデルのどこに転嫁するのかも議論のポイントでしょう。

 こうしたさまざまなハードルをクリアするためには、動脈産業、静脈産業双方いずれのプレーヤーからも中立的な旗振り役が必要だと感じます。それはSMFLを中心としたCEの共創チームが担うのが妥当だと考えています。

 その場合当社は、DX・基幹システム導入支援で培ってきた DX の知見や、ASEAN(東南アジア諸国連合)などの海外実績、長きにわたり製造業に携わってきたSCMの知見を通じ、CEへの理解・賛同を得やすい立場にあると考えます。

 加えて、脱炭素実現を掲げてGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む企業の支援を行う「GXコンシェルジュ」(住友商事とアビームコンサルティングの共同出資による事業)などの近接領域でも連携が可能です。

 このようにSMFL に代表されるリース業界と、当社のようなコンサルティングファーム、商社や素材メーカー、部品メーカー、製品メーカーの共創の枠組みをより充実させることで、CE の実現をさらに確かなものにできると期待しています。

サーキュラーエコノミーは時代の要請 世界に伍して日本が輝くビッグチャンス「CEは環境対応でも温暖化抑止でもなく、経済の仕組みそのもの。この理解を誤ると本質が見えなくなり、日系製造業の競争優位性を失いかねないリスクをもはらんでいる」

関口 ここまでCE に取り組んできて私が感じるのは、一口にCE と言っても業種や企業によって最適な事業モデルが異なるということです。その意味では、製造業のサプライチェーンに一日の長があるアビームコンサルティングとの共創が活きる局面も多いと感じます。そうして、多様な企業が当てはまるベストプラクティスを蓄積し、より多くの企業が事例を生み出せる環境を構築できれば、広がりが出てくると予測しています。

2030年までにモデルを確立 アセットの流動化・証券化も

山中 今後について掲げていらっしゃる目標はありますか?

関口 社内で共有しているのは、30年までにCE のモデルを確立させるというものです。そこに向けて今年度(24年度)は、より仕組みに厚みをつけて強化することに注力しています。CE においてどこまでDX を活用できるか、もその一つです。また、我々の持つアセットをいかに流動化・証券化できるかといったことも次のテーマになると感じています。

 加えて、日頃の地道な営業活動の中で、いかにお客様とCE に関するディスカッションを重ね、我々が描く理想に対するご理解を得ていくかも、綿々と続けていくべき重要な活動だと考えています。

山中 我々の活動においても、支援先企業からCE について打診はありますが、「昨今、CE に対する意識が高まっているから、当社でも何か取り組まなくてはいけないのではないか」「来期の経営計画や事業計画に盛り込みたいが、先行事例はあるのか」といった内容が多く、現状ではまだ具体的にCE でビジネスを展開するイメージを持っているケースは稀です。

関口 ある製造業の事例はCE に当たるのではと考えています。その企業は主力商品を販売するのではなくリース契約で提供し、修理・交換も請け負うサブスクリプションに近いモデルに取り組んでいます。メーカーはサービス提供と引き換えにユーザーの使用データを入手し、次の商品開発に活かすというもので、大胆にビジネスモデルを転換しDX を活用したCE の事例と見ることもできます。 このケースでは、商品を販売せずにメーカーが所有してデータを得る仕組みを採っており、すべてが自社内で完結しています。非常にシンプルな構成である半面、CE のモデルとしてはアセットヘビーであり、運営会社にかかる負担は大きいと感じます。それを許容できる企業はそれほど多くないのではないでしょうか。

山中 この事例の企業は、もともと製造とリースを担ってきたからこそ成立したモデルといえるかもしれません。

関口 おっしゃるように、製造とリースを行う企業は多くありませんから、通常の製造業をイメージした場合には、製品を販売する一方で、プラットフォーム上の静脈サプライチェーンから調達した再生素材や再生部品を製品に組み込むモデルになるとイメージしています。

山中 こうして見てくると、製造業がゼロから自社でCE のモデルを構築するとなると、廃棄物回収や再生、資源としての安定供給など、静脈側のサプライチェーン構築を含めた事業モデルの確立を単独でまかなうことになり、負担が大きくなってしまいます。また、投資回収の目処もつきにくく、事業継続性に影響する懸念も出てきます。

関口 その時、我々が提供しようとしているCE のプラットフォームがお役に立てるよう準備していきたいと考えていますし、世界に誇れる水準のCE モデルに育て上げたいと思います。

義務感ではなく新たな日本の勝ち筋に

山中 最後に、CE を新しい日系企業の勝ち筋と見立てて、読者にエールをお願いします。

関口 CE のモデルを確立するという目標の中で重要な項目は、マネタイズだと意識しています。高い意識を持ち、予算も確保したうえでCE に取り組んだとしても、収益化が難しいのではサステナブルではありません。初期の投資フェーズでは赤字になったとしても、やがて回収して収益化していくといった適切な事業モデルのデザインは、コンサルティングファームの存在が活きてくるのではと感じます。

 繰り返しにはなりますが、やはり変化を恐れて座しているだけでは、海外の規制に先手を取られ、失われた30年がさらに続くようなことにもなりかねません。まず着手することで、CEは世界に伍して日本が輝くビッグチャンスになりえます。かつて日本は「もったいない」文化で世界から注目されたように、CEとのカルチャーフィットは高いといえます。私はそんなわくわく感をCEに抱いて、これからも取り組んでいけたらと考えていますし、その世界観が実現すれば、まさに新しい「メイド・イン・ジャパン」の発信になると思います。

山中 たしかに、日本の製造業が大切にしてきた緻密さ、丁寧さ、工夫する力、協調性などは、CE にも活かせる能力です。完成度の高いCE モデルを日本に根づかせ、製造業などで関係性が深いASEAN からも共感を得て国際的な影響力を強め、「日本の製品を買えば、高い環境価値が得られる」というブランド力を発揮していけるはずです。

 我々アビームコンサルティングも、このCE へのビジネスモデルのシフトに際して、組織を再編・強化して挑んでいます。これまで私が率いてきたSCM の部隊に、GX の部隊、CE の部隊を統合し一本化、新たに「サプライチェーン・サステナビリティ・コンサルティング」というコンセプトを標榜し支援する体制としました。多くのプレーヤーがわくわくしてCE に取り組めるよう、ともに推進していきたいと思います。本日はありがとうございました。

サーキュラーエコノミーは時代の要請 世界に伍して日本が輝くビッグチャンス
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