輸出されるEVと共に資源が流出
サーキュラーエコノミーを推進する上で、利用者側の役割は非常に大きい。モノの利用価値を適切に評価し、合理的な対価を支払うユーザーなしに、サーキュラーエコノミーは成立しない。サーキュラーエコノミーを実現するためには、技術と人の感情に関係する二つのハードルを乗り越える必要があると木通氏は言う。
「第一に、外観だけで状態を把握できるモノはともかく、自動車や電気製品などは状態が評価しにくい。新品ならメーカーが保証してくれますが、そうではないモノの品質をいかに担保するかという課題があります。第二に、新品に価値があるといった考え方を改める必要があります。環境や持続可能性といった観点で、シェアリングや再利用に大きな価値を認めるユーザー層の拡大が求められます。これらの課題を解決するためのアプローチが、『スマートユース(賢い利用)』という考え方です」
図表1で示した通り、従来の3Rではどうしても供給側に偏った取り組みとなり、ユーザー側からすると、供給側主導のリサイクル製品などを受動的に利用するしかなかった。そうではなく、ユーザー側が積極的に中古品や他用途利用品の残存能力管理などを行って、製品・サービスを主体的に選択していくのがスマートユースである。
3Rは大量廃棄を前提とする取り組みであり、廃棄物の価値の最大化を目指す。その際、主に“静脈”ともいえる供給側の活動が重視された。サーキュラーエコノミーは製品・資源の利用価値の最大化を目指しており、静脈産業の形成に加えて、ユーザーの積極的な関与が重要になる
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デジタル技術の進化とその活用により、機械など製品の状態を可視化することができるようになった。それは使う側の安心感を高め、積極的に利用しようと思うユーザーを増やすだろう。サーキュラーエコノミーの拡大に向けて、日本でもスマートユースへの理解を深めその普及を図る必要がある。そんな考え方の下に、日本総研はさまざまな分野の企業や省庁、自治体、大学・学識者などと共に「EV電池スマートユース協議会」を設立した。
「スマートユースを推進する上で、私たちが最初に注目したのがEV電池です。まず、EV電池はリユースされるときの残存価値が大きい。例えば、500キロメートル走行可能な電池の性能が低下して300キロメートルしか走らなくなれば、電池を交換して以前の電池は廃棄することになると思います。しかし、家庭用蓄電池などの用途であれば、中古電池として十分利用できるレベルです」と木通氏。中古電池を集めれば、気象条件などによって発電量が変動する太陽光発電などの電力調整用としても利用できる。
スマートユースの対象にEV電池を選んだ理由はほかにもある。
「EV電池は高価で、潜在価値も大きいので市場が拡大しやすく、多様なプレーヤーの参加が期待できます。また、近年関心が高まっている資源安全保障の文脈でも大きな意味があります。EV電池には多くの希少資源が使われていますが、現状では中古EVの8~9割が海外に輸出されています。資源の域内循環を促進すれば、海外への資源依存を低減して資源安全保障に貢献します」
実際に、サーキュラーエコノミーによるEV電池市場の長期的な成長性は大いに期待できる。中古EVとリユースEV電池、資源リサイクルに関連する市場は2036年に3兆円超、50年には約8兆円の規模に拡大すると日本総研は予測している。
一方で課題もある。その一つが、日本では、中古EV市場が確立されているとは言い難い点だ(図表2)。EV電池の性能・安全性を正しく評価する技術が十分に育っていないことを背景に、下取り価格が低迷しており、中古車ディーラーの店頭に並ぶ中古EVはわずかで、ほとんどがEV電池と一緒に海外に輸出されているのが現状だ。EV電池のみを対象とする中古市場もないに等しい。EV電池から材料を取り出すリサイクルについては、一部で取り組み始めた段階だ。
国内では中古EV市場が確立されておらず、多くの中古EVが海外に輸出されている。品質面の不安から、リユース電池の利用も進んでいない。さらに、電池の材料レベルでのリサイクルにも、コストという壁が立ちはだかっている。サーキュラーエコノミーを実現するためには、これらの課題を克服する必要がある
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中古EVの輸出に見られるような状況が変わらなければ、サーキュラーエコノミーに関連する市場も海外に流出してしまうかもしれない。スマートユースは、そんな課題への解決アプローチということもできる。製品の品質を可視化・評価する仕組みとユーザー側のマインドの変化により、国内における製品・資源の循環をつくる。EV電池スマートユース協議会は、そんな流れを生み出そうとする取り組みである。