中古EV市場が整備されれば新車EV市場も拡大する
EV電池スマートユース協議会の具体的な活動を図表3に示した。規格標準化、評価指標、CO2削減、社会実装の全てが重要だ。ただ、ユーザーの動機付けという観点で鍵を握るのは規格標準化と評価指標だろう。
産官学が連携して大きく四つの活動を推進する。スマートユースを拡大するためには、ユーザーにとって分かりやすい指標作り、共通の尺度作りが欠かせない。それは、CO2クレジット化などの取り組みを進める上でも必須の要件となるだろう
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例えば、EV電池の残量をどのように計測し、どのように表示するか。中古電池を購入するユーザーの安心感や信頼感を獲得するためには、残量の表示の手法などを標準化する必要がある。
「電池の安全性や品質に関しても可視化する必要があります。そのためには、センシングやモニタリングなどの技術開発は欠かせませんが、現在は、さまざまな技術が存在しているものの、統一的な表示方法がないため、ユーザーが性能や安全性を正しく評価しにくくなっています」と木通氏は語る。
また、スマートユースによる環境貢献効果を可視化する必要もある。例えば、社用車を中古EVに乗り換えた場合、「循環貢献の指標に基づいてこれだけの脱炭素効果がありました」と明示できれば、環境意識の高い企業においてスマートユースは促進されるだろう。社会実装に向けては、個々の事例を積み上げていくことが重要だ。
24年10月2日には、都内でEV電池スマートユース協議会の設立記者会見が開かれた。冒頭で、日本総研専務執行役員の木下輝彦氏は「次世代のありたい未来に向けて、産官学が連携してEV電池のスマートユースを推進していきたい」とあいさつ。それを受けて、同協議会のアドバイザーを務める東北大学名誉教授の中村崇氏は「世界でEV電池のリユースが活発化する中で、日本では取り組みがまだ進んでいない。逆に言えば、それだけ開発の余地があるわけで、今回のような取り組みでリユースをシステム化できれば、まだまだ世界に追い付くことができます」と意気込みを語った。
同協議会には、国からは環境省と経済産業省、地方自治体からは福岡県が参画している。
環境省環境再生・資源循環局総務課資源循環ビジネス推進室室長補佐の仲野申一氏は「EV電池に関して、バリューチェーンをつないでリユースモデルを構築することは、循環経済への転換という意味でも重要。協議会と一体となって取り組みたい」、経済産業省イノベーション・環境局GXグループ資源循環経済課課長補佐の葉山緑氏は「循環経済への転換では、ビジネスとしての経済合理性と地域での取り組みが必要。協議会との有機的な連携で、EV電池のスマートユースを推進できれば」とそれぞれエールを送った。福岡県は国内で最も早く域内でのEVバッテリーの資源循環システム「福岡モデル」を構想し、製造拠点化を目指す「グリーンEVバッテリーネットワーク福岡」を立ち上げており、相互協力の意向が示された。
民間企業からも、製造業をはじめ、金融業やリサイクル企業など18社の企業が参画しており、この日は三井住友フィナンシャルグループ、日置電機、関西電力、NTTドコモが代表してあいさつを述べた。
木通氏は今後の展望についてこう語る。「EVはいずれ自動車市場の3割、あるいはそれ以上を占めるともいわれる巨大市場です。しかし、日本での成長速度は予想されたほどではありません。一つの要因として指摘されるのが、中古市場が未整備なこと。中古EVの市場が確立されれば、EVの新車市場にも好影響が及び、EV普及に貢献できるはずです」。
サーキュラーエコノミーは、産業構造を革新して市場を発展させる可能性を秘めている。それを懸念する向きもあるだろうが、日本社会がいち早く変革を進めることで、日本の新たな産業をグローバルに展開していく機会ともいえる。日本に新たな市場を立ち上げようとするEV電池スマートユース協議会のチャレンジは、産官学の多くのプレーヤーから関心を集めている。
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