なんと、室井は志半ばで警察を辞し、故郷・秋田でひっそりと暮らしていたのだ⋯⋯。

 その姿は、ビジネスパーソンが夢に描くようなセカンドライフ。古民家をリフォームしながら野菜を育て、被害者、加害者家族のタカとリクと愛犬との穏やかな生活。しかし、そんな日々は、突然の死体遺棄事件で騒がしくなる。しかもその遺体はあの「洋梨」と共に埋められていた⋯⋯。この続きはぜひ劇場で。

眉間のシワに刻まれた苦悩と人情。“踊るプロジェクト”最新作・室井慎次に見る理想のリーダー像©︎2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝

理想の上司像は意外と昭和な男かもしれない

 ガチガチに固めたオールバックの髪形と、しゅっとしたスーツに黒いロングコートがトレードマーク。

 室井はキャリアでありながら、現場の捜査員のために粉骨し、巨大な警察の組織改革に挑むなど、波乱に満ちた警察人生を歩んだ人物だ。組織内での上司と部下の間の板挟みや責任感とリーダーシップ、現場主義と信念の強さ、孤軍奮闘の孤独な戦いなど、多くのビジネスパーソンが自らの経験や悩みと重ねて共感するキャラクターだ。

 かつては典型的なキャリア組で、所轄(現場)の現状を知らず、刑事たちを手駒のように扱っていたこともあったが、現場たたき上げの筆頭格といえる青島との交流の中で変化していった。そして、プロジェクトや組織を束ねる立場として、“部下にチャレンジさせ、自分は責任を負う”という、理想のリーダー像に成長する姿を見せた。それを象徴するのが以下の名言だ。

「現場の君たちを信じる」「責任を取る。それが私の仕事だ」

(「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」より)

 捜査中に仲間が撃たれ混乱する捜査員たち。失意の中、青島が「室井さん聞こえるか⋯⋯仲間が撃たれた。どうして現場に血が流れるんだ」と問い、指示を仰ぐ。

 その返答が「全捜査員聞こえるか。自分の判断で動いてくれ。本部への報告は厳守。現場の君たちを信じる」そして「責任を取る。それが私の仕事だ」だった。

 安全な場所から指示を出し、部下の手柄は上司のもの。上司の失敗は部下のせい。言いたいことも言えない世の中で、社内の人間関係が希薄になりがちな令和の時代に、今振り返ってみると、昭和感のある熱い男もいいな、と思ってしまう。

眉間のシワに刻まれた苦悩と人情。“踊るプロジェクト”最新作・室井慎次に見る理想のリーダー像©︎2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝

挫折や子育ても経験。さらに成長した室井の名言が光る

 もちろん「室井慎次 敗れざる者」でも室井節は健在。もどかしくなるほどの不器用さと真っすぐさは、警察を辞めようと、生きる場所が変わろうと、室井慎次は室井慎次であるという証しだ。組織から離れた今も自分の正義感と使命に向き合い、厳しく生きている。

 そんな室井の生きざまを徹底して描く今作でも、室井の名言があふれている。ここで三つピックアップして紹介したい。ストーリーのどこに出てくるか、注目してほしい。