“受付嬢”の経験を基に開発したクラウド受付システム
前ページのような生産性のないやりとりを“受付嬢”としてずっと見てきたのが、調査を実施したRECEPTIONIST(レセプショニスト)の橋本CEOである。
「実は大学を卒業後、IT系を中心に上場企業5社の“受付嬢”として11年ほど働いていました。来訪されたお客さまの名前、訪問先、用件などを聞き、内線電話で担当者に取り次ぐ仕事です」(橋本CEO)
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業後、2005年から、トランスコスモスやUSEN、ミクシィ、GMOインターネットなど、上場企業5社の“受付嬢”として11年間で延べ120万人以上の接客を担当。 長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッド(現・RECEPTIONIST)を設立。
受付での取次は相手がすぐに出れば問題はないが、その担当者が会議中や電話中、離席など不在の場合、困った事態となる。担当者の不在で代わりに取り次いだ人は、その間の対応などのタスクも増え、また一方で、受付でも客を待たせることになる。「受付での取次は効率が悪いだけでなく、誰も幸せにならない業務だと思っていました」と橋本CEOは振り返る。
そうした自身の経験を踏まえ、橋本CEOは2016年にRECEPTIONISTを創業。電話取次が不要なクラウド受付システム「RECEPTIONIST」を17年1月にリリースした。コンセプトは「自分への来客は、自分で対応しましょう」だ。
受付にタッチパネル(iPad)を用意し、来訪者が担当者を検索して呼び出せば、担当者に直接通知が届く。受信は手持ちのスマートフォンや携帯電話、パソコン、ビジネスチャットなど、さまざまな端末やツールで可能。スマホや携帯なら着信音も設定できるので、うっかり通知を見逃す心配もない。さらに来客記録も自動的にクラウド上に保管され、来客業務の95%が削減可能になるという。「受付はIT化が最も遅れている業務の一つなのです」と橋本CEOは語る。
「来訪の知らせが直接、担当者に届くのがポイントです。半ば義務のように取次をさせられていた若手社員は『やりがいのない仕事』と感じていた業務から解放され、取り次いでもらった担当者も、申し訳ないと思わずに済みます。『自分の業務は、自分で処理する』ことがお互いの精神的負担の軽減につながることを知り、自己完結や自己責任のカルチャーが根付くことも期待できるのではないでしょうか」と橋本CEOは語る。
“受付嬢”として11年のキャリアを持つ橋本CEOが開発した「RECEPTIONIST」には、その経験を生かした工夫やアイデアが幾つも盛り込まれている。受付機能にはあえて「部署」の概念を持たせず、担当者名で呼び出せるようにしたこともその一つだ。
「“受付嬢”をしていたとき、『名前は分かっているけど、部署が分からない』というお客さまが非常に多く、担当者を特定するのにとても苦労した経験があります。そこで『部署から探す』という概念を取り払い、担当の個人名から検索できる仕組みを採用しました。この仕組みなら、担当者が部署を異動したり、部署名が変更になったりしてもメンテナンスを行う必要がないので、運用コストを下げることもできます」(橋本CEO)
そしてもう一つ、“受付嬢”の経験を基に工夫を凝らしたのが、受付と会議室予約管理の連携だ。