日頃からの備え、従業員の安全確保と施設や設備の点検が重要になる

 防災対応の基本的な考え方は、日常生活への影響を減らし、平時から突発地震に備えた事前対策を進めることにある。特に企業における防災対応は、日頃からの地震への備えを再確認した上で、個々の状況に応じて適切な防災対策を実施し、できる限り事業を継続することが重要になる。具体的には、南海トラフ地震臨時情報の種類に従って、想定されるライフラインの状況や避難指示の発令地域を確認し、事業継続への影響を想定することから始まる。

「第一に考えなくてはいけないのは、従業員の安全確保です。私がBCP(事業継続計画)を確認していて驚くのは、津波が想定される地域内に事務所があるにもかかわらず、地震発生時の集合場所を事務所に指定している企業が多いこと。まずはハザードマップなどで自社の置かれた地理的条件を確認してから、防災対応を検討する必要があります。その次に大事なのが、施設や設備の点検です。地震発生時における倒壊などの被害は、事業継続への重大な支障になりますから、日頃からの施設や設備の点検が重要になります」(磯打准教授)

あなたの会社は本当にできているか?企業活動を止めない地震対策~本気で考える地震への備え~「サプライチェーンのリスクを把握しておくことは災害対応として重要」と語る磯打准教授

 事業継続に当たって近年重視されているのが、サプライチェーンの被害の想定である。部品や材料の調達先の被害は、自社の事業活動に大きな影響を及ぼす。主要な取引先のみならず、その取引先がどこから納品しているかによっても、事業継続に与える影響は大きく変化する。日頃からのサプライチェーンのリスクの可視化は、防災対応の大きな要素なのだ。

「以前、大学のある香川県内の企業2000社ほどを可視化してネットワークで結んでみたことがあります。すると、そのネットワークの中心に位置していたのが、必ずしも大企業ではないことが分かりました。県内が大きく二つのクラスターに分かれ、その真ん中にハブになるような小さな企業がありました。経済データはなかなか取得しにくいのですが、サプライチェーンのリスクを把握しておくことは災害対応として重要になります。

 東日本大震災以降、企業のBCPへの取り組みの姿勢はがらりと変わりました。より具体的になって、対策の内容も充実してきました。ただし中小・小規模事業者においては、防災対策にまで手が回らないところが多い。基本的な社員の安否確認対策が取られていなかったり、防災対策のシナリオが経営者の頭の中だけにしまい込まれていたりします。防災対策には、SNSを活用した連絡手段や、什器レイアウトの見直しなど、コストをかけずに見直せることが多くあります。企業の規模にかかわらず、『南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン』(内閣府〈防災担当〉)を参考に、訓練を重視しながら対策を取ることが大切なのです」と磯打准教授は話す。