意匠登録という“お墨付き”はモチベーションアップになる
神谷 デザインが似ている悪質なアプリなどに対しては権利を行使するという話がありましたが、実際にはどのような事例があったのでしょうか。
高部 過去に、弊社のアプリと同じUIデザインで、サービスのロゴだけが変更されているアプリが配信されていることがありました。アプリストアに報告して削除依頼をする際に、ロゴが変更されているため商標権の侵害を説明することは難しいのですが、そのUIデザインに関する意匠権を取得していたことで、意匠権の侵害を説明しました。弊社のサービスでは、ロゴを変えただけで模倣され、フィッシングなど悪意あるサイトに利用されることもあるので、そのような悪意の第三者からユーザーを守り、弊社のブランドイメージを守るために、対策としてリリースするデザインの「見たまま」「そのまま」を意識した意匠図面で権利化を行います。「そのまま」の図面にすると意匠権の範囲が狭くなってしまう印象がありますが、むしろロゴを変えただけの模倣UIに対しては類似していることが一目瞭然で、権利行使がしやすくなります。その他に、弊社の他のサービスにも適用可能な汎用性のある図面で出願することも行っています。二つの出願パターンを使い分けることで、より有効にデザインを保護できると考えています。
神谷 意匠公報に創作者として名前が載ることはデザイナーのモチベーションアップにつながるというお話を聞いたことがありますが、その点はいかがでしょうか。
町田 開発時はいろいろなパターンのデザインを考えるのですが、もちろん採用されるのは一つだけ。振り落とされたものは “お蔵入り”になる。でもそのときリリースされなかったデザインも、出願して登録されれば今まで世の中になかったデザインという証しになり、デザイナーのモチベーションアップにつながります。今の技術ではできないけれど次の技術ではできることを常に考えているので、会社の廊下で知財部の方を見掛けると、声を掛けて「いいアイデアを思い付いたから」と相談することもあります(笑)。
伊藤 プロダクトデザインや広告デザインでは世界的なデザイン賞がいくつもありますが、UIにはそうした賞がないですね。権利化がモチベーションアップにつながるという話は、私たちもうれしく感じます。

町田 UIデザインは地味な仕事の部類で、デザイナーの名前が前に出ることもないし、UIそのもので賞が取れるわけでもない。でもUIデザインが「いいデザイン」と思われていることは、必ずしも「いい」とはいえません。ユーザーからするとデザインが目立つことはノイズだからです。むしろ気付かれないデザインがいい。とはいえ、苦労したデザインが意匠登録という形でお墨付きがもらえるのはうれしいです。
神谷 インターネットの世界にはより多くの人に使ってもらうためにシェアする文化があるとのことですが、意匠登録も排他的な独占権としてデザインを独り占めするためではなくて、悪意ある模倣品を排除してみんなに安心して使ってもらうために権利を取っているというお話に目からうろこが落ちる思いです。意匠をはじめとする知的財産権には、ブランドの在り方とその価値を適切にコントロールする力があり、安定したビジネスにつながるもの。そのことを広く知ってもらう活動を続けるとともに、意匠制度をオープンソースの時代の変化に応えられるようなより良い制度にしていきたいと考えています。本日はありがとうございました。
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