このときの“餌”は、同社のすぐ近くにある地元の新里酒造から出た泡盛の酒かすだった。泡盛かすは醸造企業にとっては処理にコストのかかる産業廃棄物だったのである。
オーランチオキトリウムを低コストで大量かつ安定的に培養する技術でAlgaleXは、すでに先行者の立場にある。多田CTOは、培養の際の栄養供給や温度設定の管理でAIの活用を進めている。「うま藻」の生産量を25年から新たな設備によって6倍以上に増やせるのは、このAI開発の成果だ。
藻が日本の漁業・食料自給の救世主となり得る
うま味調味料事業と水産飼料事業。二刀流の成長の柱を持つAlgaleXへの期待は大きい。資金調達においてベンチャーキャピタルやメガバンクからの出資引き出しに成功しているほか、公的助成の活用が進んでいる。農林水産省の補助を得て、センターの培養機器を時間レンタルする体制から脱して、自社専用の培養設備を新設、スケールアップに挑むことができた。高度な滅菌レベルの培養設備を設けるとなると、半導体製造のクリーンルームと同じで、コストが爆上がりする。ここに支援の手が入った。
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うま藻事業では、生産量や販路の拡大に加え、製品ラインアップの強化も進めており、近く新たな派生商品が加わる見込みだ。「さらに次の段階ではコスト削減を進め、自然のうま味が欲しい企業へBtoBの原料販売も加速させていきます。『ウマミ』が世界共通の言葉になりつつあるので、海外展開も考えています」(高田社長)。
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その先に控えているのは、やはり魚粉の代替を目指す水産養殖飼料ビジネスだ。AlgaleXが現在も開発を続けている藻類飼料が実用化に至れば、これを用いた水産養殖は、日本の漁業、ひいては日本の食料自給にとって救世主となる可能性さえある。原材料は酒かすなどの廃物利用で賄え、常温の範囲内でタンクを用いて行われる養殖は光熱などの大きなエネルギーを要さない。輸入に強く依存することなく養殖漁業を持続・拡大させることができる。
「魚粉はペルーやチリでのイワシの漁獲高によって価格が乱高下します。安定生産が可能なオーランチオキトリウムには、非常に大きなチャンスがあります」と、高田社長は期待を寄せる。