「男性育業」の推進が、多様な人財が活躍する鍵に

ここで同社が男性育業100%に至るまでの経緯を振り返っておくと、その原点は10年にさかのぼる。多様な人財の活躍を経営課題とし「ダイバーシティ元年」を宣言したのだ。

「仕事柄、もともとお酒の場を積極的に楽しむカルチャーがあり、かつては『子どもが生まれた日も、業務で酒席に参加していた』なんてエピソードが語られていた時代もありました。社員の女性比率も低く、結婚や出産で退職する女性社員も多かったので、まずは女性活躍が大きな課題となりました。そこで、10年以降、家庭と仕事の両立を支援する制度を拡充していったのです」と話す内山取締役。

おかげで出産退職する女性社員はほぼゼロになったが、男性社員の育業取得率は低迷が続き、育業期間も2〜3日が大半だった。そこで、10年に「無給」扱いだった育業の開始1週間を有給化。さらに、出生届が出された男性社員全員に、人事部長からお祝いと共に育業を推奨するメールを送るという取り組みも始まった。

第3回:育児の経験が仕事にもプラスに!男性育業を推進するサッポロビールが目指す「ライフ」と「ワーク」のいい関係1年間の育業という「勇気ある先駆者のおかげで、仕事のブランクができることへの不安や心配がかなり払拭されました」と話す内山取締役

「家族の幸せのためにも、自身が輝くためにも、ぜひ育業してください──という趣旨のメッセージを、本人だけでなく上司や職場の人事担当者にも同時に、人事部長がダイレクトに送るものです。これはかなりインパクトがあったようで、1週間以上の育業がぐっと増えました」(内山取締役)

こうしてじわじわと育業取得率が向上し、育業期間も伸びてきて、22年にはついに男性社員として初めての1年間の育業者が現れる。この事例はメディアにも取り上げられ、社内のマインドを大きく変えるきっかけになったそう。

「勇気ある先駆者のおかげで、仕事のブランクができることへの不安や心配がかなり払拭されました。その男性社員は、復帰後もテレワークなどをうまく活用して効率の良い働き方を実践していて、現在、家庭と仕事の両立の良きロールモデルになってくれています」と内山取締役はほほ笑む。