本気を伝える情報発信でマインドを変え「男性の育業取得率100%」を実現

制度の整備以外に力を入れたのが、「会社としての本気」を伝える情報発信だ。ここでは「社内副業制度」を活用して育業推進に参画した、人事部以外の他部署のメンバーが活躍した。

「育児やライフ・ワーク・バランスにまつわる制度や情報は、それまでも人事部から社内イントラネットで全社員に共有していましたが、実際のところ、あまり閲覧されていませんでした。関心を高めるために、人事部以外の社員の目線を入れようと考え、社内副業を募集したのです」と内山取締役。

プロジェクトは、4人の副業メンバーに人事部の担当者が加わって22年に始まった。何度もミーティングを重ねてアイデアを出し合った結果、二つのツールが誕生した。

一つは「収入シミュレーションシート」。自分の給与明細から基礎データを入力すると、1カ月当たりの育児休業給付金がどれくらい支給されるのかを示してくれるもの。育業の開始から6カ月経過前後の係数の違いも分けて表示されるので、長期で育業する際のシミュレーションもできる。また、会社から受け取る給与や手当だけでなく、公的な補助金も合わせて表示され、リアルな収入金額が確認できる優れ物だ。

内山取締役は「社内アンケートで『給与がどれぐらい減るか分からないのが不安』という声が結構あったのです。補助を活用すると、実は収入はそれほど減らないのですが、それを可視化できたのは大きかったですね。使い勝手も良く、多くの人に使ってもらえました」と話す。

もう一つは「育児・家事ガイドブック」だ。男性目線では気付きにくい「育児あるある」をユーモアたっぷりに表現した漫画やコラム、育児・家事でやるべきことをリストに一覧化して、新米パパがどう育児・家事に関わるべきかなどをまとめた冊子で、出生届が提出された社員全てに配布して、男性の育児参加意識を強く後押しするものとなっている。

第3回:育児の経験が仕事にもプラスに!男性育業を推進するサッポロビールが目指す「ライフ」と「ワーク」のいい関係表紙のかわいいイラストも、中の漫画も社員の作品!男性も楽しく育児が学べる内容になっている「育児・家事ガイドブック」

「会社として明確にメッセージを出したことが育業取得率100%につながったと思いますし、実際に100%が実現したことで、育業が難しいと思われていた営業職や、部下をたくさん抱えた管理職でも必ずできるという認識が広がりました」と内山取締役。ここからさらに「長期の育業」を増やす決め手として導入されたのが、冒頭に紹介した「休職職場応援ポイント制度」なのだ。

制度の導入から約1年。まだ運用を経験していない部署や事業所も多いため、今後はさらに制度の周知やサポートが必要だが、すでに経験した社員の声はおおむね好評だ。

「フォローを経験した若手社員から、育業当事者の社員だけでなく、その家族からもフォローへの感謝の声が届き、喜ぶ声を聞きました。若手にとってはスキルアップのチャンスにもなりますし、将来の子育てのイメージも湧くのでモチベーションが上がるようです」(内山取締役)

「ライフ」と「ワーク」のバランスをより良くしていく取り組みは、ビジネスを活性化するためにも欠かせないと内山取締役は指摘し、最後にこう語る。

「これからのビジネスでは、ただ商品を売るだけでなく、付加価値や物語性をいかに生み出すかがますます問われます。仕事に没頭するだけでなく、家族と過ごす時間や、地域と関わる経験を通してこそ、そのヒントが得られるのではないでしょうか。仕事とは別の時間も大事にすることが、事業の成長とイノベーションにつながりますし、本当の意味で幸せを届けられる会社になるためにも必要だと思っています」

●問い合わせ先
東京都
こどもスマイルムーブメント事務局
TEL:03-5213-0815(電話受付 平日10時00分~17時00分) 
MAIL:jimukyoku@kodomo-smile.metro.tokyo.lg.jp

第3回:育児の経験が仕事にもプラスに!男性育業を推進するサッポロビールが目指す「ライフ」と「ワーク」のいい関係